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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2021/11/17 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

畏れ入谷の彼女の柘榴

著者:舞城王太郎

出版社:講談社

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畏れ入谷の彼女の柘榴

100パーセントはない。
しばらく生きてきて、それはわかってる。
この人は60パーセント。
このひとはどうやっても30パーセント。
この人はかなり通じるとおもっていたのに、急にわからなくなった。

あなたは?
わたしの話は、思いは、あなたには全体のうち何パーセント伝わっているの?

きっと言っても伝わらないな。
笑顔で話を終わらせてしまうのはわたしの悪いところなのだろうか。
軋轢を生まない、相手に失礼をしない、互いの別々の尊厳を無傷で持ち帰ること。
そのやり方は間違っているのだろうか。

舞城の小説の主人公たちはわたしとは違う。
言葉を尽くす。行動で示す。自分の全てを投げうって相手のこころにヒビを入れる。
自分を押し付けるとも違う。
自分の愛を、信じ抜いている彼らがまぶしくて、こわくてたまらない。
愛を貫くのはこんなにもおそろしいことなのか。
自分の愛を貫くために、愛する相手とさえも闘わなくてはいけないときがある。
20パーセントしか伝わらなかったら?
どれだけ自分をぶつけても、まったくわかりあえなかったら?
正しさの闘いではない。だから勝ち負けもない。
ただ、自分の愛に顔向けができるか、そのための闘い。

いつも読むだけで足が竦みます。
けれどいつも、何度も読んでしまう。
わたしも、まだあきらめたくないのだろうか。

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