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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2021/11/07 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

絶望名人カフカの人生論

著者:カフカ 頭木弘樹 編訳

出版社:新潮社

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絶望名人カフカの人生論

通勤電車の中では本を読んだり、朝焼けを眺めたり、人間観察をして過ごしています。
色んな人がいます。いくら空席があっても決して座らず立ったままの人。反対にひとつでも空いている席があれば、乗車客をかき分けズンズン進み遠慮なくドカッと座る人。でもそんな人ほど、すぐ次の駅で降りたりします。人それぞれです。

ちょっと私には理解できない人にも出会いました。他にいくつか空席があるにもかかわらず、わざわざ私の隣に着席したオジサンです。
「えっ、何で?」と周りを見渡しました。満員ではなかったからです。2つ前は誰も座っていません。斜め前の4人掛けのボックス席もです。後ろにも空席がちらほらありました。

「YOUは何しにこの席に?」
理由を問いただしたいけど、そんな勇気はありません。

私が座っていたのは、ドアのすぐ横の席でした。そのオジサンにとっては、乗り込んで最初に目にした空いている席に、何も考えずただスッと座っただけかもしれません。たまたま隣に私がいただけで・・・
そう思い込もうとしましたが、何か気になってしかたありません。

オジサンは新聞を読み始めました。今はみんなスマホです。気にせず隣に座ったり新聞読んだり、いまどきちょっと珍しいタイプの人のようです。
新聞を半分に折りたたみながら読んでいますので、少しは私に気を使ってくれているのでしょうが、それなら最初から隣に誰も居ない席に座ればいいものを、気遣いが出来るのか出来ないのか、本当によくわからないオジサンです。

次の駅で降りるふりをして立ち上がり、席を移りました。オジサンの観察を続けようと、私は進行方向を背にして座りました。
その時、ふと思いました。逆向きだけど、それは後ろ向きというのとは違う。私にとっては、いま見ている方が前だ。遠ざかっていく瀬戸内海の島々、美しい朝焼け、そして新聞読んでるオジサン。それが私にとって目の前の風景なのです。

考え方もそうかもしれません。さらに言えば生き方もそうです。他人にとって後ろ向きと思われても、その人にとっては、それが前向きなのです。

「絶望名人カフカの人生論」 カフカ 頭木弘樹 編訳 新潮文庫

「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」
これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。彼のネガティブな、本音の言葉を集めたのがこの本です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。
誰よりも深く落ち込み、誰よりも情けない弱音をはいた、巨人カフカの元気が出る名言集。

編訳者の頭木弘樹さんは大学三年生だった20歳のとき難病にかかり、医師から「一生治らない。働くことも一生無理」と言われたそうです。カフカの『変身』にある非現実的な設定、「ある日突然、身体に異変が起きて、部屋から出られなくなり、家族に面倒をみてもらうしかなくなる」事態を、身をもって体験されました。
それから十三年の間、病院に入院しているか自宅にいる、という強制ひきこもり生活が続きます。そんな中で、いちばん支えとなったのが、カフカの日記や手紙だったと言われます。

「絶望しているときには、絶望の言葉が必要」

頭木さん自身の体験、そして長い入院生活で出会った人達とふれあううちに、そう確信されたとのことです。現代の音楽療法で「同質の原理」と呼ばれている、「悲しいときは悲しい音楽を」と同じ考え方です。
また文庫版のあとがきによると、十二歳から八十八歳まで幅広い年齢層の方から反響があり、なかでも十四歳の少女からの「一緒にどん底まで落ちてくれる友達のような本です」との感想が印象的だったと述べられています。

 「落ち込んだ時に読む本リストに是非」
本書を「啓文社スタッフおすすめ本フェア 第3弾」の1冊に選んだイオン三原店Iさんのおすすめコメントです。
もちろん私もリストに、というか本棚に加えさせていただきました。

私が毎朝乗っている通勤電車では、前向きで座っている人は瀬戸内海の穏やかで美しい朝焼けが見られません。進行方向とは逆に座っているからこそ見えてくる景色があります。そんな1冊です。

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