時は近未来。結婚相手を見つけるため、遺伝子情報を元に最適な相手を判定し、カップル成立を推進する「結婚仲介」が国家事業として成り立っている時代。そこで「特A判定」、これ以上ないほどの理想のカップルと判定された二人は、結婚後すぐに、それが過ちであったことに気づく。しかし、「特A判定」のカップルの離婚など、絶対にあってはならない世界なのだ。二人はそれでも、別れなければならない。かくして、国家に逆らって「正当に離婚する」ための戦いが始まる……。

新本格ミステリ第一世代にあたる我孫子武丸さんの異色作が『さよならのためだけに』。これ以上ないほどのお似合いのカップルだと国によって判定された男女が、別れるために共闘する小説です。
発表されたのは2010年、その後2012年に文庫になりました。
発表当時は、やや荒唐無稽な設定の小説だったと思いますが、結婚観や恋愛観の多様性が言われるようになった2020年代では、不思議リアリティを帯びてきているようになってきています。今こそ読まれるべき作品だと思います。

実は本書、私にとっても思い出の一冊でして、
初めて「文庫解説」を書いた作品こそ、この『さよならのためだけに』なんですね。
初めていただいた大きな仕事で、これをきっかけに次に繋がるといいな、と思ったので、ものすごく一生懸命に書いたことを覚えています。
それからも、ありがたいことにしばしば文庫解説の仕事をいただいておりまして、これまでに十冊近くになっています。その原点が本書です。
今回の新装版の刊行にあたり、この文庫解説も再録してくださることになりました。一部表現を修正して、最近の情報や新装版についての情報を追記しました。ぜひ合わせて読んでいただけると嬉しいです。

新装版のオビにもある通り、「こんな恋愛小説、他に絶対ない!!」くらいのインパクトのある小説ですよ。