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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2021/12/05 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

頁をめくる音で息をする

著者:藤井基二

出版社:本の雑誌社

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頁をめくる音で息をする

休日、夜が明けるころ藤井基二『頁をめくる音で息をする』(本の雑誌社)を読んでいた。妻が起きてきたので、まさか「頁をめくる音」が聞こえたから?と思ったら、トイレに行ってまた寝ていた。
この本、福山の子が書いとるんで〜と教えたかったのに...

8時過ぎに息子が起きてきた。今日は休みらしい。実家の父から呼び出しがあったので「一緒に行く?」と聞いてみる。
息子は「ええよ」と言ってくれた。いい子だ。

お寺さんが来られるとのことで仏間の掃除をした。父の指示で、駐車場を起点にお寺さんが歩くであろう道筋だけ掃き掃除をした。父は合理的なのだ。でも、見たらすぐバレるだろうに…
考えれば、今ここにいるのは親、子、孫の三代だ。それぞれ30歳ぐらいずつ年齢が離れている。イケメン親子だ、とLINEで送ったら、妻から「それはそれは」と返信が来た。

お昼ご飯を食べて帰る時、息子に「ちょっと尾道に行かん?」と誘ってみる。朝読んでいた『頁をめくる音で息をする』の著者、藤井基二さんが営まれている古本屋・弐拾㏈に行きたかったからだ。平日は23時からだが、週末は昼間に営業されている。
またまた「いいよ」と言ってくれた息子。いまどき休日に父親とデート?してくれる26歳男子がいるだろうか。なんていい子なんだ。彼女は、まだいないらしいが…

尾道では、これまでいくつかの店舗に勤めた。郊外店もインショップも、向島や商店街の店は店長を兼任させてもらった。
創業の久保の店には、以前本社があったことを知らないスタッフもいるだろう。就活の時、尾道駅から商店街を歩いて会社訪問に行ったことを思い出す。その時対応して頂いた店長は退職されているが、「本屋の仕事は、毎日ワクワクして面白いよ」と語ってくれた。

息子が「着いたよ」と車を停める。細い路地を通って戸を開けると4、5人のお客さんがいた。店主の藤井さんは女性のお客さんと談笑されていたので、そそそっと奥に進む。息子が、「児玉さんの本があるよ」と小声で教えてくれた。『尾道坂道書店事件簿』が平台にあった。他にも『10代のための読書地図』(本の雑誌社)など、古本だけでなく新刊本も置かれていた。

小上がりがあったので靴を脱いであがらせてもらった。店内で靴を脱ぐと気分が落ち着くのが不思議だ。その小上がりの棚で『‘93年版ベスト・エッセイ集 中くらいの妻』(文藝春秋)を見つける。『頁をめくる音で息をする』の著者紹介で、藤井さんは1993年生まれと知っていた。「だから’93年版なのか」と思い購入した。
というのは後付けの理由。池部良「鰻の蒲焼」、新藤兼人「ある日荷風は浅草で」と頁をめくっていく。いい買い物だった。

頁(ページ)をめくる音で息をする
『古本屋を始めてこの四月で五年が経つ。古本を買い取り、古本を売り、なんとか生きている。学生時代に願ってやまなかった暮らしをそれなりに謳歌してしまっている。逃げ続けていたら、そこに本があった。』

随筆はもちろんだが、日記がよかった。
『僕にはこれしかない。僕が売っているものは本であり、誰かの呼吸だ。その声で生かされているのだから、やめるわけにはいかない。』

『自分がどんな店になりたいかと考えたとき、「茶目っ気」という言葉がふと思い浮かぶ。品揃えや店の作りが凝っているなど、いろんな店があるなか、僕は茶目っ気のある店でありたいと思う。』

『注文があった本とは別に、お客さんが好きそうなタイトルもあわせて数冊注文する。頑張ればちゃんと売れる。気がする。たぶん。きっと。頼む。』

『いい詩とは何かという話をお客さんと時々する。そのたびに僕は悩みながらこう答える。それは「切実さと誠実さ」なのではないかと。』

確かに切実で誠実な詩のようだった。本も店も。

帰りには啓文社新浜店に立ち寄った。『頁をめくる音で息をする』は、目立つ場所で平積みになっているのを確認した。「よしよし」と思いながら、併設されている瑪蜜黛(モミトイ)で温かい台湾タピオカストレートティーと「あまおう苺のぷりんどら」を買った。

帰りも息子が運転してくれた。食べたら眠たくなったので「寝てもいい?」と聞いたら「ええよ」と答えてくれた。なんていい子なんだ。
こんないい子なのに、彼女はまだいない。

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