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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2022/02/14 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
サラダ記念日
著者:俵万智
出版社:河出書房新社
妻から指示された買い物は、いつものバナナ・・・ではなく土佐文旦(とさぶんたん)。「濃厚な甘さと爽やかな酸味が魅力」、高知県を代表とする特産果実だ。最近のお気に入りらしい。帰りに20個買ってきて~と言われた。
でも20個って多くないか?文旦はソフトボールの球ぐらいに大きくて重い。みかん20個とはわけが違うのだ。交渉して3個入りの袋を3つ、計9個で勘弁してもらった。ただ思ったより重かったので、結局2袋、6個だけ買って帰った。
買ったのはこれだけ・・・、妻は「こいつ使えんなぁ~」と思っていることだろう。
録画していた朝ドラを一緒に見ながら、妻がひとりで文旦を食べていた。ちらっと横目で見ると「何なん?あげんよ」、「欲しかったら自分で皮むいて食べ」とけん制された。えっ、まだ何も言うとらんよ。
少し冷たいところがある妻は、クールビューティ?なのだ。
そんな妻がお客さんとして来ていて、店内でバッタリ会ったことがある。驚いたのと照れくさいのとで、私は回れ右してそそくさと逃げるように立ち去った。背中越しに妻の声が聞こえてきた。「ツンデレかっ!」
クールビューティな妻とツンデレな私は、結婚33年目のアラカン夫婦だ。お互いこれまでの人生の半分以上を一緒に過ごしている。
それでも知らないことは多い。出逢った時にはアラサーだった彼女の若い頃を、私は知らない。たとえば高校生の時とか(ずいぶん戻るなぁ…)、彼女はどんな女子高生だったのだろうか。
以前そんな話をした時、「たとえ高校生の頃に出会っていても、あなたとは付き合えない」と言われた。ちょっとショックだったけど、その理由を考えて納得した。妻が高校生の時、私は小学生だったのだ。
「妻、小学生になる。」(村田椰融/芳文社コミックス)ではなく、「(あの頃の)小学生、夫になる。」だ。
それにしても中学生や高校生の頃、彼女はどんな男子がタイプだったのだろうか?
モジモジしながらチョコを渡したのだろうか・・・
今日は2月14日のバレンタインデー。何か1冊紹介しようと本棚を探していて目が合った。
『サラダ記念日』 俵万智 河出文庫
私が持っているのは文庫だが、文芸書版の初版は1987年5月発行とある。
発売当時のことはよく覚えている。大ベストセラーだった。店内で作業中に受けるお問い合わせ、かかってくる電話、ほとんど全部が『サラダ記念日』の在庫についてだった。
『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』(福井県立図書館/講談社)ではないが、「サラダの絵日記は?」とか「いま売れとるレタスの何とか?」などのお問い合わせもあったと記憶している。
入荷しても即売切れ。店頭に出しても振り返ったら無くなっている、というくらいの勢いだった。重版分が予約でいっぱいになり、店に出せないこともしばしばだった。
新米の文芸書担当だった私は謝ってばかり。私にとって「サラダ記念日」のお問い合わせと、「申し訳ございません。ただいま品切れで・・・」がセットだった。それが理由になるか、そして理解して頂けるか分からないが、あれほど話題だった『サラダ記念日』を、私は発売当時には読まなかった。
それが、この歳になって初めて文庫で読んだ。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
一番有名なのはタイトルでもあるこの歌だ。でも私が、この歌すごいな~と感じたのは別だった。
我だけを想う男のつまらなさ知りつつ君にそれを望めり
気持ちを上手く歌にできるものだと思う。他にもある。
今我を待たせてしまっている君の胸の痛みを思って待とう
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
この歌いいな~を並べてみて自分は乙女オジサンだと気づく・・・と書いていて、私も何か歌にできるのでは、と思った。
例えば文旦と同じく最近妻がハマっているのは、「1日7秒以上のハグで大切な人との絆が強くなる」というものだ。TVを見ていて知ったそうだ。
そのお相手をするのは、もちろん私だ。今日も流れ星にお願いするように、無言でハグしたまま7秒間たたずむアラカン夫婦。
さあ、どんな歌にしましょうか。