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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2022/04/05 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


コミック

ピノ:PINO

著者:村上たかし

出版社:双葉社

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ピノ:PINO

心を持ってしまったAIとヒトの交流を描く『ピノ:PINO』(村上たかし/双葉社)を読んで思い出した。
中高生のころハマっていた星新一のショートショートに、確かこのような話があった。

少子化が進む近未来、ある企業がとても優秀な育児ロボットを開発した。仕事に家事にと忙しい両親に代わり、身の回りのお世話をはじめ、しつけも勉強も含めて育児全般を担ってくれるロボットだ。それは格安な値段(無償貸与だったかも)で提供されるのだ。

最初は親たちもその性能を疑っていた。しかし、やさしい(耳に心地よく心にスッと入ってくる)声を持つ育児ロボットに育てられた子どもは、学業の成績が飛びぬけて優秀で尚且つ素直で性格のいい子という素晴らしい成果を示した。
その結果を知った親たちはこぞって育児ロボットを導入し、ほとんどの家庭に備わることとなった。安心して任せられるので子どもを持ちやすくなり、少子化も改善されつつあった。

やがて育児ロボットに育てられた第一世代が成長して大人になり、社会に出て働くようになる。高学歴で高収入の彼らは、裕福な消費者となっていた。それも経済知識が豊富な“賢い消費者”だ。
そんな時、ある企業が新製品を発売した。大々的に流されたCMから懐かしい声が聞こえてきた。その声に導かれ、何の疑いもなく素直に商品を購入するかつての子どもたちが続出し、瞬く間にヒット商品となった。

CMで流れてきたのは、彼らを育ててくれた育児ロボットのやさしい声だったのだ。どんなに高価であっても、その声で購入を勧められると躊躇せず買う。必要がなくても買う。買うのが恩返し、自分たち子どもの使命だと言わんばかりに。
彼らは素直で聞き分けのいい子のまま変わることなく大人(消費者)になったのだ。

いまも賢くて従順ないい子たちが次々と生まれ育っている。その“国営”企業にとって都合のいい子たちが…

記憶違いや別の話も混ざっているかも知れないが、だいたいそんな内容だったと思う。
星新一を読んでいた中高生の頃は、単純にSFとしてこの話を面白がっていた。世の中それに近いことは現実に行われているのだと知ったのは、大人になってからだ。

そんな育児ロボットの話を思い出していると、自分の仕事にあてはめた書店員ロボットの物語を創作してみたくなった。

どんな質問にも正確な答えが出せ、接客も完璧。まるでピノのような心を持った書店員ロボットだ。
店頭在庫の有無、有るのならどの棚に、品切れなら重版日はいつ、再入荷はいつかを把握・・・なんて当然のことだ。これまでに発行された書籍の全データ、これから発売される予定もすべてインプットされている。TV、ラジオ、新聞そしてSNS、常時更新されているありとあらゆる情報を網羅している。だから例えどんなに些細で曖昧な情報からでもご希望の本を瞬時に特定できる。

「いらっしゃいませ」と同時に顔認識をする書店員ロボット。もちろんマスクをしていてもOKだ。人物を特定すると過去の読書歴から好きな作家や傾向など個人情報を取り出す。今は何を読んでいて、これから何を読もうと思っているのかをAIで推定、さらに踏み込んで今後必要になるはずの知識を割り出し“次に何を読むべきなのか”までも提示してくれる。

読書傾向はもちろんのこと年齢、家族構成、職歴、出身校、出身地及び過去に住んだことのある地域まで、会話の糸口になる話題はすべて把握。また、その日の表情、しぐさから考えられる相手が心地よく感じられる最良の声の大きさ、会話のスピード、言葉遣い(時に故郷の方言で)という完璧に相手に合わせた接客態度がとれる。
もちろんリアルタイムで情報を共有しているので、店内の全ての接客ロボットに尋ねても等しく同じ対応が可能。

人間以上の知識で、人間ではマネできない完璧な対応をする書店員ロボットの出現。
ロボットに取って代わられ、私たち生身の書店員は仕事を失い・・・

街の片隅に人間だけで営まれている隠れ家のような書店があった。店主が個人的におすすめしている本だけが棚に並んでいる小さな店だ。年配の男性客(エヌ氏)が、いつものようにふらっと店に立ち寄り店主Mに尋ねる。

エヌ氏:「何か入ってる?」
店主M:「お好きな時代小説の新刊が入ってますよ」
エヌ氏:「他には?最近読んで面白かったものとか教えてくれない」
店主M:「そうですね、○○ですかね」
エヌ氏:「どんな本?」
店主M:「クセの強い作品が多い〇〇ミステリー大賞受賞作の中でも、かなりエンタメに振り切った作品で・・・」

店主Mは好きな本について思いを語る。熱く。
エヌ氏:「面白そうだね。いただくよ。じゃあまた」

今日も来てくれた。気持ちよくおすすめ本を買ってくれるエヌ氏。そう彼はAI搭載「お客様ロボット」

「書店員ロボット」「お客様ロボット」はフィクションです。実在の個人・団体との関係は・・・ちょっとだけです。

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