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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2022/06/20 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

私と街たち(ほぼ自伝)

著者:吉本ばなな

出版社:河出書房新社

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私と街たち(ほぼ自伝)

なつかしい街。
もう帰れない場所。
記憶の中だけで会える人たち。
あの日差しも、においも、ぬるい風も、あのこの笑い声も、さっきのことのように憶えている、遠い日。

吉本ばななさんが過ごしてきたさまざまな街たちと、そこで出会った人々との思い出について書かれた本です。

本当に、ただの文字の集まりというものにわたしは何度も救われてきました。
もちろん、吉本ばななさんの小説にも。エッセイにも。
十代の頃、これでもかと救われまくったくせに、大人になった風にしらっと生きるために角を曲がると、気付けば彼女の小説と離れてしまった時期があった。
いろいろな道を行ったり来たり、手のなる方へ、みんなの行く方へ、多勢が正解と信じてみたり。
じたばたした挙句、もしかしてわたしは自分以外のものにはなれないのでは…と呆然と立ちすくんだ四十代に差し掛かった今、この本で半ば通り魔的にあっというまに救われてしまった。
思い出せばたびたびあった。追いつめられて、角を曲がったところで辻斬り的に何度も救われた。
今の自分を嫌いではない。嫌いになりそうな道の角に、吉本ばななさんの小説がぬっ、と現れて。
頑固に自分のコアを守ってこられたのは繰り返し読んだあなたの言葉のおかげです。
でたらめに歩いてもたびたびすれ違う。
同時代に生まれ、リアルタイムで追えることがただただ嬉しいです。
一方通行だけれど、きっとわたしの運命の人です。

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