瀬戸内の静かな島で、出会った少年と少女。
彼らの恋愛は、心を弾ませるふわふわとしたものではなくて、嵐の中飲み込まれまいと死に物狂いで掴む命綱のようだった。それがなくては自分を保てないくらいの。
そしていつしか彼らを縛ってしまう鎖のような。

わたしがいつも目を逸らしているもの。
それさえなければ、どこまでも自由に舞い上がれるもの。
それがないと、足元が崩れ落ちて底なしに落ちてしまうもの。
おそろしくて直視できなかった。
そんな『愛』のすべてがここにあります。

大きく抉り取り、同時に深く満たしてくれるこの小説を、一冊でも多く、少しでも遠くまでぶん投げたい(販売したい)。どうか届いて欲しい。つかまって、どうかこの世界を渡り切って欲しいです。



尾道生まれなので、島の描写が胸にきました。
夜の砂浜を歩いて、波音を聴かないとしずめられない気持ちを思い出します。
その世界の狭さ、あたたかさ、からみつく温もりと重み。風の止まった海辺の空気みたい。