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笠原寛史 がおすすめする本です。


啓文社全店のスタッフが不定期に更新する「スタッフおすすめ」コーナー。 最新書き込みから順次表示しています。

2022/08/30 更新

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笠原寛史

がおすすめする本です。


フィクション

越境

著者:コーマック・マッカーシー

出版社:早川書房

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越境

みなさんは理不尽な出来事に遭遇した際、うまく感情をコントロールすることができますか?
私は不得意だったため、それが一時期の自分にとって大きな悩みの種でした。
なぜなら、理不尽なことがあると負の感情に支配されてすべてを悪くとらえてしまい、最後は悩み疲れて世の中を呪うことで問題から目をそらしてしまうからです。
そんな私の日々を少し変える転機となったのが、ある日観た「ノーカントリー」という映画でした。
その映画には「アントン・シガー」という謎多き暗殺者が出てくるのですが、彼の悪行にはなんだか「どうしようもなさ」や「仕方なさ」のようなものが感じられ、それが自分にとって印象的で忘れられない映画となりました。
それからシガーとは何だったのかが気になり、映画の原作者「コーマック・マッカーシー」の小説を読むようになりました。

『越境』 著者:コーマック・マッカーシー 訳者:黒原敏行 早川書房
十六歳のビリーは、家族の家畜を襲っていた牝狼を罠で捕らえた。いまや近隣で狼は珍しく、メキシコから越境してきたに違いない。ビリーは傷ついた牝狼の姿を見るうちに、故郷の山に帰してやりたいとの強い衝動を感じる。父の指示には反して、彼は家族には何も告げずに、牝狼を連れ国境を不法に越えた。その長い旅路の果てに底なしの哀しみが待ちうけているとは知らず――孤高の巨匠が描き上げる、美しく、残酷な青春小説
(BOOKデータベースより)

この小説ではメキシコや牝狼が未知の世界の象徴として描かれます。
その世界は1つ振る舞いを間違えると命にかかわる話の通じない場所であり、危険の矛先はビリーにも容赦なく向けられます。
しかし、主人公ビリーはその世界に奪われてしまった大切な存在を取り返そうと3度もメキシコに越境をします。
彼は旅の途中で温かい人情に何度も触れ幸福な瞬間にもめぐり逢うのですが、やがて最後にはすべてを失ってしまいます。
物語には最後まで安易な救いや希望がないのですが、作者が描きたかったのはそんな荒涼とした世界でも世の中を呪ったりせず運命を受け入れ強く生きる非力な少年ビリーの姿なのだと感じました。
読後ちょっと時間が経ってから明日を生きるささやかで確かな希望や手がかりのようなものを与えてくれた、まさしく美しく残酷な青春小説でした。

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