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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2022/10/10 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

先祖探偵

著者:新川帆立

出版社:角川春樹事務所

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先祖探偵

年齢を問われると誇らしげに、「もう91になりました」と答える父。みんなが驚く。背筋を伸ばし、杖なしで歩いているからだ。
電動アシスト自転車に乗り(危ないからやめて欲しい)、また時にクラッチ操作が必要な草刈り機も動かす。

医師から「いや~お元気ですね。でも人生100年時代、90越えも今はそう珍しくないですよ」と言われ、少しムッとした表情をみせる父。
長寿の秘訣は、その“負けん気”にあるのだ。

先日、親族の集まりがあった。年配の男性が古い白黒写真を見せ、「これ覚えとってですか?」と尋ねてきた。
負けず嫌いな父は何とか思い出そうとしていたが、しばらく見つめては「ようわからんな…」と私に写真を向けてきた。
でも、お父さんがわからんぐらい古いもの、僕にはもっとわからんよ。

実際は覚えてないと言うより、写真が小さすぎて見えなかったのだ。試しにiPhoneで撮影して拡大してみた。2組の男女が写っていた。
若い頃の父と母、そして伯父と伯母だった。2組ともが新婚、あるいは婚約した頃かも知れないとのことだった。

周りが段取りして年頃の男女を一緒にさせていた時代だ。親戚やそのまた親戚、友人知人にご近所さん、色んな人に「いい娘さんがいたら紹介して」と声をかけ、「それなら一度会わせてみようか」という話になったのだろう。
推察するに昭和29年か30年、父と伯父は23か24歳、母と伯母は20、21歳の頃だ。いまはアラサーになった私の娘や息子よりも若く、アルバイトの大学生ぐらいの年齢だ。

父は何となくわかる。若い頃の私に似て…、いや逆だ。私が似ているのだ。でも母は印象が違う。和服ということもあるが、ふくよかで、まん丸い顔をしている。髪型は・・・そう、サザエさんに似ている。そして緊張気味に写っている父とは異なり、少し微笑んでいるように見える。
でも良かった。幸せそうだ。

お見合いして、何度かデートもしたはずだ。どんな感じの付き合いだったのだろう。
そう言えば母から聞いたことがある。父は若い頃オートバイに乗っていた。かなりインパクトが強かったのだろう。小柄で細かった父が、“自分の体より大きなバイクにまたがって、「ドッドッドッドッ」とやって来た”と話していた。
父は自慢げに何度もバイクのメーカー名を伝えたようだ。「メグロというオートバイ」と母が言っていたのを覚えている。

インターネットで「メグロ」、「オートバイ」で調べてみた。「目黒製作所」がヒットした。
戦前からのオートバイメーカーで、第2回全日本オートバイ耐久ロードレースでは1位と2位、そして4位、5位を独占した。だが大型車を得意としていたことから小型車ブームに乗れず、ホンダなどの戦後派メーカーに押されてしまったようだ。
その後、現在の川崎重工業に吸収され「カワサキメグロ」になった。もしかすると“バイク目黒バイク”という芸人さんが存在していたかも?

ということより、そのメグロのバイクで父と母はどこかに出掛けたのだろうか…と考えていたら、またまた思い出した。そうだ、帝釈峡に行ったことがあると言っていたのだ。
本当はオートバイで行ったとは聞いていない。それでも私の空想の中では、大型バイクで風を切って迎えに行く父、はにかみながら後ろに乗る母の姿が見える。

最近は父と母のことをもっと知りたいと思う様になった。これも年齢のせいかも知れない。

『先祖探偵』 新川帆立 角川春樹事務所

ひとりでも寂しくない。私はもっと、強くなれる――。 「あなたのご先祖様を調査いたします」 風子は、母と生き別れてから20年以上、 野良猫のように暮らしてきた。 東京は谷中銀座の路地裏で、探偵事務所をひらいている。 「曾祖父を探してください」「先祖の霊のたたりかもしれないので、調べて」など、様々な先祖の調査依頼が舞い込む。 宮崎、岩手、沖縄…… 調査に赴いた旅先で美味しい料理を楽しみながら、マイペースで仕事をしている風子。いつか、自らの母を探したいと思いながら―― 大人気作家による「探偵小説」の傑作が、ここに誕生。

全5話の連作短篇。ハードボイルドだと聞いていたが、それでも最初はまだ穏やかと言える案件だ。調査で向かう各地での食事の描写も本当に美味しそうだ。
それが徐々にオカルト風だったり、田舎の因習がからむ横溝正史のミステリのようになり、そうかと思うと無戸籍や貧困、移民などの社会問題が絡んできて、風子自身のルーツを探るハードボイルドな展開に繋がっていく。
そして偶然見つけた1枚の写真が、風子を母へと導く。

休みの日には父とスーパーに買い出しに行く。地元の方はよくご存じだろう。福山出身の伝説のDJ・小林克也さんが「ベストヒットUSA!」の名調子で、「今日は〇〇の日!」とお買い得情報を教えてくれるあのお店だ。
ショッピングカートを押しながら父の後をついていく。忘れないように記したメモを見ながら商品をひとつずつ吟味してカゴに入れていく父。自分が欲しいものをシレっとカゴに紛れ込ませる私。

息子としては、元気で長生きしてくれるのは何より有難い。お父さん、買い物だったら何時でも付きあいますよ。
ちなみに次の年金支給日はいつですか?実はちょっと…

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