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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2022/11/02 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


文庫

世界の終りの天文台

著者:リリー・ブルックス=ダルトン,佐田千織

出版社:東京創元社

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世界の終りの天文台

秋です。わけもなくせつなくなる季節。
そんなときなぜかさらにせつなくなる小説を読んでしまう。追いせつなさをこう、ぐりぐりと。
自分でも謎の現象なのですが、この季節になると感情のひとつひとつをつまびらかにしたい、バラバラにして暴きたい、と毎年やっているような気がします。
誕生日が、近いからかなあ。

せつない、といえばSF。
この物語はそりゃあせつないです。
人類が滅亡してしまうらしい…北極圏の天文台に残った老学者オーガスティンと帰還途中だった木星探査船の乗組員サリー。
どこからも連絡が途絶え、いくら呼びかけても返事がない。互いの存在に気づかないまま、オーガスティンとサリーたちはそれぞれの物語を進んでいきます。
遠い星を見上げ、今はない遥かなる時間を見つめる天文学者。
その星を掴むために、長い長い旅をして、今は地球へと帰ろうとしている宇宙飛行士。
互いに互いを見つめているのに、気付きようもない細くかすかな…何か。
しかも、オーガスティンとサリーは今の状況でなくともずっと孤独だった。
愛を拒絶し続けてきたオーガスティン。
求めた愛を得られずにきたサリー。
孤独なふたりは愛のかけらも感じられないような冷たく遠い星の世界を見上げることで、心を静めていたんじゃないだろうか。
愛のない冷えた心にあたたかな世界は逆にきついと思うから。

もしも世界が終わるなら、あなたは誰と過ごしたい?

この帯文を読んで、頭の中がぶわっ!と膨らんだ?爆発した?感じがしました。
今はいない人でも、遠い過去の情景でも、きっとあなたの心にも浮かんだはず。
永遠って、人の心の中にいつだってあるもんなんだなあ、と安心に似た諦観を感じました。
日が沈み、色が変わってゆく空を見ながら読んでいただきたいです。

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