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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2022/11/15 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

いただきますの山 昆虫食ガール 狩猟女子 里山移住の成長記録

著者:束元理恵

出版社:ぞうさん出版

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いただきますの山 昆虫食ガール 狩猟女子 里山移住の成長記録

「あんたは女子が好きなんじゃね~」と言われたことがある。
母親ぐらいの年齢と思しきオバ…いや、女性から、あきれたような口調で言われたのだ。
かなり前、私はまだ若く、確か結婚してすぐの頃だった。法事か何か、初めて妻の親戚の集まりに出席した時のことだ。

上座では、「世の中動かしとるんはワシらじゃ!」といった感じの50代、60代の元気なオジサンたちが、お酒を飲み、タバコをふかしながら大きな声で話していた。
これまで何度か述べてきたが、私はお酒とタバコ、そして話すことが苦手だ。なかでも年上の男性との会話が大の苦手だ。
なので世の中を動かしている人生のパイセン男子には、ちょこっと挨拶をしただけで、すすす~と下座の女子及び子どもたちの集団に紛れ込んでいたのだ。

「僕が面倒みてますから大丈夫ですよ~」というテイでお子様たちと戯れながら、内心は「君たち、このまま一緒にお兄さんと遊んでいてね、ね、ね、ね」と願っていた。

そんな下手な芝居を打っている私の本心を見破った件のオバ・・・お姉さまが、声をかけてきた。
「こんなとこにおらんと、あんたが一番下なんじゃけえ、お酒を注ぎに行きんさいや」

ジミ婚だった私たち夫婦は披露宴をしていない。なのでカワイイ?姪っ子である妻の花嫁姿を、親戚のおば様方に見せていないのだ。その為か、私に対する言葉に多少の嫌みが含まれていたのだろう。
でも実は母心から出た一言だと知っている。新たに親族に加わった若造の私に、酒席での身の処し方を教えてくれたのだ。

政治や行政への不満から、親戚の誰それの噂話に病気自慢、私なんぞが参加せずとも話は途切れず、永遠に続くように思われた。
なので男性陣の端っこの方で正座して相槌だけ打っていると、出来上がって赤い顔したオジサンの一人から「ほいで、あんたは誰じゃったかの~」と思い出したかのように振られ、最初に挨拶した通りの説明を繰り返した。

「ほ~じゃった、○○ちゃんのお婿さんじゃ、まあ飲み」と、オジサンたちからビールの集中砲火を浴びせられた。
つ、つ、つらい。もう帰りたい。助けて~と周りを見渡し妻の姿を探した。

親戚のお姉さま方に囲まれて、遅ればせながら結婚の報告をしている妻。
彼女は、ガハガハ笑いながら飲んでいた。手酌だった…

私は思った。ここは自分の居場所ではない。自分で選んだはずなのに、ここじゃなかった、かも?

『いただきますの山 昆虫食ガール 狩猟女子 里山移住の成長記録』 束元理恵 ぞうさん出版

憧れていた幼稚園の先生になった束元理恵さんは、社会人生活に慣れるのに苦労し、やがて仕事中に倒れてしまう。新しい環境と人間関係の中で、自分の気持ちや考えを上手く伝えられず溜め込んでしまったことが原因らしい。自主退職した彼女の喪失感は大きく、心にポッカリと穴があく。

私に何ができるんだろう・・・、私はいったい何がしたいんだろう…

妹に誘われて訪れた尾道。雨宿りがてらに入ったカフェで、オーナーの男性から質問される。
「ご友人ですか?」 「いえ、姉妹です」 「どこから来たんですか?」 「熊野町です」
「普段は何してるの?」 「私は4月から大学に行って、将来は・・・」、すらすらと答える妹。

「お姉さんは?」の質問に手が震え、喉の奥がカラカラになる。
「・・・・何も・・・・してません・・・・」、小さな声で答える。

「何もしてないの、いいね! 何でもできるじゃない!」
家に帰った後も、オーナーである村上さんの言葉を思い出しながら、また尾道に行きたい、尾道で暮らしたいという気持ちが湧いてきた。

熊野町から尾道へ移住、そして尾道から北広島町へ、また現在は江田島で暮らす。虫を料理し、イノシシを獲り、パンを焼く。自然・生き物への愛情と、複雑な若者の気持ちを、ちょっと変わった食生活とともにみずみずしく描写した青春物語。

自分で獲ったイノシシを、自分で育て石臼で挽いた小麦で焼いたパン、自分で育て収穫した米と食べる。時には涙を流しながら食べる。ポロポロと泣きながら頬張ると、空しい気持ちは心の奥に引っ込んで、しょっぱいお肉と小麦と米が私のお腹を満たす。
私は自分が美味しいと感じるものを、美味しいと言って食べ、生きていきたい。(本文より)

いまいる場所が自分の居場所なのだ。いまやっていることが、やりたかったことだ。
なので猟銃を持つのも、手放すのも。人とかかわるのも、一人でいるのも、その時々の気持ちに沿って過ごせばいい。
読んでいる私も素直な気持ちになれた。

「今度本を出すんです」と挨拶に来られた束元さん。
「私は熊野町出身でこの店にもよく来てました。懐かしい」と穏やかに話されていた。
おしゃべりが苦手な書店のオジサンである私は、ただお話を聞くだけだった。愛想が無くてすみません…

でもこのオジサン、世の中は動かせないが本の場所を動かすことはできる。
一番目立つ場所に置いたで~

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