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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2022/11/26 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

猫を棄てる 父親について語るとき

著者:村上春樹

出版社:文藝春秋

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猫を棄てる 父親について語るとき

規制が緩和されたので、娘が3年ぶりに帰国した。もちろん夫である台湾男子も一緒だ。基本うれしいのだが、正直ちょっとな~という気持ちもある。
もうすぐ4年目なので、もはや新婚ではないが、また二人でいちゃつく姿を見せつけられるのか…
その思いから娘の名前を口にして、「○○〇だけが帰ってくればいいのに…」とつぶやいたら、「お父さん、そんなこと言うもんじゃないよ」と息子からたしなめられた。

「いや、仕事が忙しいんじゃないかと思ってさ」、なんて言い訳なんかしちゃったりして。
これじゃ、どっちが親だかわからない。親が立派過ぎると子どもは大変なことが多いが、わが家は親(もちろん父親である私)が頼りないから、子どもたちが妙にしっかりしているのだ。まあ、それはそれで子どもたちも大変なんだろうけどさ。

だが台湾男子をみていると本当に忙しそうだった。わが家に到着したその日の夜から、早速仕事をしていた。
進学塾の講師をしている彼は、高校生に数学を教えている。台湾との時差は約1時間。私たちが久々に娘と食事をしてくつろいでいる間、隣の部屋で彼はリモートで授業を行っていたのだ。壁の向こうから聞こえてくる中国語。いまどきリモートワークは珍しくないが、わが家で実際に行われるなんて、なんだか不思議な感じがした。

台湾は日本と違い高校までが義務教育だ。さらに現在の大学進学率は80%以上、普通科の高校だと95%以上(ネットで調べると100%と書いてあるサイトもあった)らしい。いずれにしても日本どころではない高学歴社会であることは確かだ。
ちなみに彼らは英語名を持っている。英語を習い始めると同時に使い始め、社会に出てから仕事でもそのまま英語名が通用するそうだ。英語への親しみ方というか向き合い方が、日本とはずいぶん違うのだ。

そんな優秀な彼に対抗したいわけではないが、「ほ~ら、見てごらん」と帯に私のコメントが採用された文庫を自慢げに差し出した。
もちろん日本語ができる彼はそれを読み、「オトーサン、スゴイデスネ~」を連呼しては期待以上のリアクションをみせてくれた。嬉しいけど、ちょっと大げさ過ぎんか…まるでマンガやドラマのような驚き方だ。
もしかすると娘から演技指導があったのか?とも思ったが、どうやらそれが彼の地のようだ。それに塾の講師という職業柄、人を褒めることが自然にできるのかも知れない。

せっかくの機会なのでと家族旅行に行った。どのような行程で宿泊は何処にするかなど、娘が帰国前、既にネットで調べて予約を取り、段取りすべてを済ませてくれていた。
旅行支援を利用して格安だった。さらに彼らは免税店で安く買い物ができる。一緒だと観光地では特に有利だ。妻も色んな意味でとても嬉しそうだった。

妻とは対照的に、私は感情を表に出すことを控える傾向にある。さらに言えば、楽しむということ対してある種の罪悪感さえ持っている。昭和一桁生まれの父、そして母の影響を少なからず受けているのだ。なので旅行中もそんなに楽しそうにしていなかったようだ。娘と息子たちにも気をつかわせてしまった。唯一、妻だけは知っていた。「お父さんは、あれはあれですごく楽しんどるんよ。」

『猫を棄てる 父親について語るとき』 村上春樹 文春文庫

ある夏の午後、僕は父と一緒に自転車に乗り、猫を海岸に棄てに行った。家の玄関で先回りした猫に迎えられたときは、二人で呆然とした……。村上春樹が、語られることのなかった父の経験を引き継ぎ、たどり、自らのルーツを初めて綴った、話題の書。
イラストレーションは、台湾出身で『緑の歌₋収集群風₋』が話題の高妍(ガオ イェン)氏。

“言い換えれば我々は、広大な大地に向けて降る膨大な数の雨粒の、名もなき一滴に過ぎない。固有ではあるけれど、交換可能な一滴だ。しかしその一滴の雨水には、一滴の雨水なりの思いがある。一滴の雨水の歴史があり、それを受け継いでいくという一滴の雨水の責務がある。”(本文より)

私は、コラムで私の父について語ることができ、父について書くことが出来る。そして一方では、父として子どもたちのことを語り、書くことも出来る。一滴の雨水に過ぎない私も、こうして家族の歴史を綴ることが出来る。それが楽しみでもあり、幸せでもある。

いまわが家の車は軽自動車なので、息子がみんな一緒に乗れるレンタカーを手配してくれた。保険の関係らしいが、運転は息子だけがするように限定されていた。なので3日間ドライバーを務めてくれたが、若さなのかまったく疲れをみせずに楽しんでいた。
彼は早々に温泉を堪能し、ホテル近くのコンビニで飲み物とスイーツを買い込み、旅先でもリアルタイムで楽しみたいからとドラマ「silent」を見ては、「夏帆すごっ!」と手話をはじめ彼女の細やかな表現力に感動していた。どうやら息子は、綾瀬はるかさんから夏帆さんに推しを変えたようだ。
息子よ、夏帆さんは君のお姉さんと同い年だよ。

なんてことまで綴らなくても良かったかもしれない。
ちなみに「本さえあれば、日日平安」は、今回で祝200回!と自慢しようとしたら201回目でした。

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