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本さえあれば、日日平安

本さえあれば、日日平安

長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2022/12/07 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

文芸オタクの私が教える バズる文章教室

著者:三宅香帆

出版社:サンクチュアリ出版

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文芸オタクの私が教える バズる文章教室

いま店頭では来年のカレンダーが花盛りです。みなさんお待ちかねのジャニーズカレンダーの予約も始まりました。
ほとんど年度版ですが、なかには毎年、毎月使えるカレンダーもあります。○年も〇月も書いてなくて日付のみ。その代わり毎日1つだけ格言とか名言とかが書いてある。そう、「毎日〇〇〇」と言ったタイトルの「日めくりカレンダー」です。

ふと、思いました。このコラムから抜粋して、1日1冊本を紹介する「日めくりカレンダー」ができんじゃね?
題して「本さえあれば、365日日日平安」って、タイトルに日が多すぎ。それにちょっと前、やっと200回を越えたぐらいなので数量的にも程遠い。ならば、これまでに色々書いたものを集めてみたらどうかと、パソコンに残っている原稿を見直しました。

『武者とゆく』 稲葉稔 講談社文庫
勤務時間の関係で、家族が皆出かけて誰もいない昼過ぎに家を出て、家族が寝静まった深夜に帰宅する日が続いています。そんな時でも必ず見送りと出迎えをしてくれるのが愛犬のブーちゃん(仮)です。
ブーちゃんはパグの女の子で、ペチャっとした鼻とポッコリしたお腹が愛らしく、何となくうちの奥さんに似ていて好みのタイプです。そして口下手な私の話も、その大きな瞳を輝かせながら辛抱強く聞いてくれます。ブーちゃんになら何でも話せます。かけがえの無い、そして頼りになる相棒です。『武者とゆく』は、そんな賢くて頼りになる犬が活躍する時代小説で・・・

これを書いたのは2008年。深夜0時まで営業の店に勤務していました。いまや定番の奥さんネタですが、パグに似て「ペチャっとした鼻とポッコリしたお腹」という表現に、もちろんその方からクレームが・・・でも「愛らしい」ってフォローしとるし、そんな怒らんでも。

『のぼうの城』 和田竜 小学館
「らしく」という言葉に何を感じますか。「男らしく」とかに使われる「らしく」です。自分が置かれている立場で、それ「らしく」振舞わなければ皆から認めてもらえないのではと、窮屈な感じがしませんか。
そんな「らしく」の呪縛から暫しの間解き放ってくれる、夢のような話に出合いました。「らしく」ない人が「らしく」ない活躍をして、「らしく」なくても良いのだと「らしく」ない人たちに勇気を与える、時代小説「らしく」ないところもあるけど、そこがまた堪らなく面白い。痛快で爽やかな物語です。

直木賞や本屋大賞にノミネート、また映画化されるなど本作品が世の中で話題になるより前に書いていたので、いち早く紹介することができたのが、ちょっとした自慢だったのを覚えています。

『夏の椿』 北 重人 文春文庫
こんな経験はありませんか。小説を読むうちにある曲や歌を思い出し、読んでいる間はずっと頭の中で流れていること。また、あの場面にはこの曲とのイメージが、意識していないのにふっと浮かんでくること。私は本書である曲を連想しました。それは美しく哀愁に満ちた旋律の奥に、深く熱い情熱を秘めた官能的な曲でした。
その曲を連想させた『夏の椿』は、江戸の世に地に足をつけて生きる庶民の生活と風景を緻密で巧みな文章で綴り、儚くも艶のある大人の世界を描いた時代小説です。

ちなみにその楽曲は、ジャズギタリスト、ジム・ホールの『アランフェス協奏曲』です。当時ハマっていて、実際よく聴いていました。
でも、いま読み返すと「ジャズを聴きながら時代小説読んでるオレってどうよ」と、いかにもカッコつけている文章が、とてもカッコ悪く思えます。

先どりを自慢するではなく、知識マウントをとるではなく、カッコつけるでもない。ましてや家族ネタを暴露しては妻から𠮟られることもない。誰も傷つけず、自分が楽しみながら、読んだ人も楽しめる文章って、どのような文章なのでしょうか?

『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』 三宅香帆 サンクチュアリ出版

「バズる」というタイトルに、正直読む前は抵抗がありました。ワザと過激なことを言うとか、影響力のある人と意識して繋がるとか、様々なテクニックを駆使して一時的に大きな拡散を狙う、という作為的なものを感じたからです。

ごめんなさい、違っていました。本書は「読んでて楽しい文章の法則」を、具体例を示しながらわかりやすくまとめた1冊です。
書評ライター・三宅香帆さんが、自身が書いた「おすすめ本の紹介記事」がバズったのは何故か、と考えて出した結論は、「文章の内容や情報の価値について悩まずに、文章でみんなに楽しんでもらうことを優先していたから。そして読んでくれた人に“いいなあ、この文章”って好感を持ってもらおうと工夫していたから」ということです。

なかには、その「好感を持ってもらおうと工夫」することが、「バズらせよう」としていることだと指摘する人がいるかも知れません。
「ものまねは、本物よりも本物らしくしてようやく似る」とか「思いがけない展開が、面白さを生む」など、受け取り方によっては実際より盛るってこと?とも感じます。また「カタカナで注目させる」とか「突然、変なことを言う」とか、読ませるための策略?と意地悪くとることも出来ます。
でも、そういうこととは全く異なります。いわば料理と似ています。隠し味というか、何かスパイスをきかせる、ということと同じだと感じました。「美味しかった!また食べたい」と言ってもらうための工夫と一緒で、「面白かった!また読みたい」と思ってもらうための工夫です。

記載されている49のアドバイスを、一度に全て盛り込むことは大変です。まずは1つだけを意識して書くのはどうでしょうか。1つだけ注意して、あとは自分の思う様に書く。それだけで49回は書けます。

それでも「本さえあれば、365日日日平安」カレンダーには、100日以上足りません。まだまだ道半ばです。
そんなことを考えながら、おすすめ本の「いつか読書をする人へ」に目を転じると、最新(2022/12/05更新)の『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』(品田遊/朝日新聞出版)で338回でした。いつかさん!いや、いつか姉さん、もう少しです!
でも、この○○姉さんという言い回し、前に書いたかも・・・

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