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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2023/01/20 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


ノンフィクション

ポンコツ一家

著者:にしおかすみこ

出版社:講談社

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ポンコツ一家

家族紹介。
うちは、
母、八十歳、認知症。
姉、四十七歳、ダウン症。
父、八十一歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。四十五歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである。

その最初の一文を読んであまりにびっくりして、その場にいた店長を始めとする皆に見せてまわってしまった。
これは、大変だ…。
あの、つややかな黒髪を振り乱した彼女の叫び声が頭の中に響いている。

大人になってからの実家は、遠い昔の日の宝箱だ。
あの頃の、しあわせな、きらきらしたものをいっぱいにつめこんで、ふたをしてしまい込んでしまって。
時々すこしふたを開けてのぞく。
あの頃あんなに大きく見えたものは、こんなに小さくゆがんでいたのだっけ?わたしがおおきくなっただけ?それとも…。古びて、色あせてて、なんだか…。

勘違いしてしまっていた。
自分も、皆も、いつまでも背が伸び続けるのだと。成長し続けるのだと。大人に、なり続けるのだと。
知らなかった。背比べのグラフが、曲線を描くことがあるのだって。


家族の皆をポンコツと呼ぶ。自分自身のこともポンコツという。にしおかすみこさんに何度お礼を言っても足りないと思ったこの本。
ありがとう。ポンコツといってくれて。
ありがとう。受け入れ、拒絶し、ぶつかり、あきらめ、なにもかもどうにもならなくても、毎日は続くってことをあきらかにしてくれて。
こうやってちょっとづつ、あちこちが傷んでいく。
時には急激にしなびてちぢんでいく。
そんなんがふつうのことだって書いてくれて。
おもしろかったら笑ってもいい。たぶんどんなときにもその隙はあった。遠慮しなくってもよかった。

それにしても、この状況でどうしてそんなとっさに見事な切り返しができるのだろう。あの状況でそんな面白いこと思いつけるのだろう。…芸人さんとして磨き続けた刃がきらりと光ります。
でもそんな、彼女だけの武器が折れてしまう日もきっと来るのでしょう。
わたしにも来る。めちゃくちゃにこわい。
でもみんなそうなんだ。
考えてもしょうがないから考えまい。
考えられなくなったらしょうがないね。
それまでは、そしてそれからも、一瞬の隙をついて笑い続けようと思います。

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