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佐々木大佑 がおすすめする本です。
啓文社全店のスタッフが不定期に更新する「スタッフおすすめ」コーナー。 最新書き込みから順次表示しています。
2023/01/23 更新
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佐々木大佑がおすすめする本です。
コミック
葬送のフリーレン➀~⑨
著者:山田鐘人アベツカサ
出版社:小学館
「わからない、だから知ろうと思っている」
そこから始まる物語。それが今回紹介する『葬送のフリーレン』という漫画だ。
魔族に脅かされる世界で魔王を倒すべく立ち上がった勇者とその仲間たちが旅をする、というのがよくある筋書きだが、この物語は少し違う。描かれるのは勇者が魔王を倒し、平和な時代が訪れてからの世界。魔王を破った勇者ヒンメル。彼の仲間で魔法使いのフリーレンがこの物語の主人公だ。エルフという何百年も生きる人間とは異なる種族である彼女は勇者ヒンメルの没後、再び旅に出ることを決める。しかし、今度の旅は魔王を倒すための旅ではなかった。エルフであるフリーレンには分からなかったのだ。何百年、何千年と生きながらえる自分が、長い一生の内の、たったの10年旅をした仲間たちとの思い出を何故こんなに大切に思っているのか。ヒンメルが死んでしまった時、なぜ自分が涙を流していたのか。その理由を。描かれるのは“人間を知るための後日譚”。失ってしまったものはもう戻らない。あまりにも早く時間は過去っていく。だけど、今はいない誰かから受け取った言葉も、意志も、紡いできた思い出も消えることは無い。寿命が長く、永遠にも感じる果てしない時間を生きるフリーレンは、かつて仲間たちと歩いた旅路をもう一度なぞる中でそのことを知る。フリーレン自身はというと、エルフの自分には人間の気持ちなんて分からないとドライに言っていたりするが、僕にはそう見えない。だって気付けば彼女はいつも「勇者ヒンメルならそうしたから」と口にして誰かを助けている。
笑いたい時や感動がほしい時以外にも、少し勇気が貰いたいときに僕はこの漫画を開く。本当は多分誰だって知っている。エルフじゃなくたって分かっているのだ。気持は言葉にしないと伝わらない。知ろうとしないと他人のことなんて分からない。そして今この瞬間にも時間は刻々と過ぎている。いなくなってからでは遅いから、いつも急いでいる。そうありたい。けれど実際は、肝心な時に押し黙ってしまうし、自分のことばかり考えてしまう。そして、いなくなってから後悔してばかりだ。だから勇気を貰う。知ろうとして旅を続けるフリーレンに自分を重ねると大切な誰かのことをもっと知りたいと思える。