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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2023/02/05 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
フィクション
大ピンチずかん
著者:鈴木のりたけ
出版社:小学館
あの日、あの時、あの場所で、まさかあんなことに出会うなんて…
「ラブ・ストーリーは突然に」ではない。大ピンチは突然に、なのだ。
トイレで用を足して出る時に、いつになく風通しのよさを感じた。何気に触ると開いていた。社会の窓が。
朝の早い時間で、まだ店はオープン前だったが、ズボンのファスナーはフルオープンだった。
「おかしいな~ちゃんと閉めたのに…」と思いながら確認するために回れ右して戻った。
後で知ったことだが、ファスナーの両端にあるギザギザハート…じゃなくギザギザの歯をエレメントと呼び、その左右のエレメントを上下に動きながら繋ぎ合わせたり離したりする部品をスライダーというらしい。
見るとそのスライダーから片方のエレメントが完全に外れてしまっていた。「翼の折れたエンジェル」(中村あゆみ/1985年)ならぬ「片方の外れたエレメント」だ。
ブルゾンとかだったら、またスライダーを一番下まで戻してはめ直せるが、V字になっているズボンのファスナーではそれが出来ない。かと言って一番上からはめる事もままならない。要するに、ニッチもサッチもどうにもブルドックな状態なのだ。
だが何時までもトイレにはいられない。朝礼の時間が迫っていた。その日は店長Mが公休だった。なので私が伝達事項並びに昨日お問い合わせのあった商品、そして今朝の新聞広告に掲載されている新刊を紹介しなければならない。お願いだから皆うつむかないで!視線を下げないで!
朝礼のためにスタッフが集う。そう言えば、この中に何らかの対処法をご存じの人が居るかも知れない。そうだ、いつも明るく気分上々↑↑ミヒマルなGさんとTさんが目の前にいるじゃないか!!
そう思うと彼女たちが、女神のように後光がさして見えてくるのが不思議だ。
並んで立つ二人の姿は、まるで今を時めく女性ボーカルデュオのようでもある。例えるなら「愛のしるし」PUFFY、あるいは「淋しい熱帯魚」Wink、はたまた「UFO」ピンク・レディー、もしかして「恋のバカンス」ザ・ピーナッツ…
でも、どうしよう。どちらかだけにこっそりと打ち明けようか?それとも2人同時に?
やはり女性に相談するのは恥ずかしい。自分で何とかしなければならない。先ほどは時間がなかったが、もう一度トイレの個室に入ってズボンを脱いで詳しく状態を調べたら、解決の糸口が見つかるかも知れない。それまでは、かがむ、しゃがむ、座るの3点、「む・む・る」を避けることにした。ちなみに旅行ガイド「るるぶ」は、「見る」、「食べる」、「遊ぶ」である。
それでもストッカー(棚の下にある引き出し、開けて中を見られるのはSTAFF ONLY)から商品を取り出す場合がある。
その時は、がさつに足を広げてヤンキー座りをするのではなく、着物をお召しになった女性が腰を下ろすように膝を揃える。梅沢富美男さんが「夢芝居」(作詞・作曲:小椋佳/1982年)を舞うイメージだ。
細心の注意を払いながら、午前中を何とかやり過ごせた。やっと迎えた昼休憩の間に落ち着いて考えてみた。要は何かを使ってファスナーをくっつけるか、閉めればいいのだ。閃いた。簡単なことだ。安全ピンを使えばいいのだ。
追い込まれると人はいいアイデアが浮かぶものだ。安全ピン、安全ピン、安全ピン・・・と呪文のように唱えて探した。またまた閃いた。何らかのキャンペーンを実施する時に宣伝用の缶バッジを頂くことがある。大概その裏に安全ピンが付いているではないか。
すぐに見つかった。図書カードがQRコード読取り方式の新しい図書カードNEXTになった時に頂いた缶バッジに付いていた。
少し気がとがめたが、「緊急事態につき御免仕る」と一気に剥がした。
ありがとう図書カードNEXT、この恩は決して忘れないよ。
『大ピンチずかん』 鈴木のりたけ 小学館
大ピンチを知れば、いつ大ピンチになってもこわくない。
この図鑑は、こどもが出あう世の中のさまざまな大ピンチを、「大ピンチレベル」の大きさと、5段階の「なりやすさ」で分類し、レベルの小さいものから順番に紹介します。また、その大ピンチの対処法や、似ている大ピンチ、大ピンチからさらにおそいかかる大ピンチなど、あらゆる方向から 大ピンチを ときあかします。
・・・などといえば、かたい本に聞こえますが、もちろんそうではありません。期待を裏切らない「のりたけワールド」炸裂で、鋭くもあたたかい観察眼と、思わずふき出すユーモアにあふれた1冊です。第15回MOE絵本屋さん大賞第一位
ピンチの後にチャンスあり。例えば傘を忘れても助けてくれる人が現れる。それは期せずして「ラブ・ストーリーは突然に」っぽいことかも知れない。
ぜひ本書でお確かめください。もちろん図書カードNEXTでもご購入いただけます。