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佐々木大佑 がおすすめする本です。


啓文社全店のスタッフが不定期に更新する「スタッフおすすめ」コーナー。 最新書き込みから順次表示しています。

2023/02/25 更新

スタッフのおすすめ


岡山本店

佐々木大佑

がおすすめする本です。


フィクション

正欲

著者:朝井リョウ

出版社:新潮社

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正欲

友だちに「この本やばいから読んでみ」そう勧められたので読んだ。読み終わって衝撃だった。面白いとか、読んでよかったとかそういう次元の話ではなかった。ただ、その友だちには悪いが、やばい、とは思わなかった。だって、この本で描かれているのは、ある人にとっての当たり前であり日常であり普通なのだから。男性が女性を好きになり、女性が男性を好きになるのと同じように、例えば幼児しか恋愛対象に見れない大人や、蛇口から水が湧き出る様子に興奮を覚える人間がいるという、ただそれだけの話なのだ。別段変わったことなど何一つない。やばくなんてない。やばいなんて言葉で片付けてしまうなんて口語道断だ。怖いとか、病気だなんて言っちゃいけない。可哀想だし。もう21世紀だし。価値観なんて人それぞれで、「正しさ」なんて無限で、マイノリティーもオカシイ奴も等しく愛して受け入れて生きていこうじゃないか。
ただ、俺や俺の周りの大事な人には近づかないでくれよ。お前に気持ち悪いとか、他にも沢山酷いこと言っちゃうかもしれないから。

書いてて笑ってしまった。つまり、この本で描かれるのは今言ったようなことなのだ。そういう意味で確かに「やばい」作品だと思う。社会全体に流れる多様性やマイノリティーを軽視しない風向きそのものを否定するのではない。話を難しくしているのは、他人を思いやる想像力は優しさであり、暴力的でもあるということだ。もしも、打ち明けてみたらどうだろう。「自分はゲイなんだ」、「ロリコンなんだ」、「水を見ると興奮するんだ」。結局言葉にしないと他人に本当の自分なんて分かってもらえないから。だけど、その本気の言葉が無下にされたら?受け入れられなかったら?きっと、もうどうでもよくなる。いわゆる「無敵の人」に近い。自分は何かとんでもないことをやらかしてしまうんじゃないか。それが怖くて、自分を守るために皆、口を噤んでいる。誰だって間違えたくはないはずだ。だから最後には結局...諦めるしかない。

そういう、人が普段、無意識レベルで必死に取り繕って、見ないふりをして、守っているものを徹底的に暴く作品だ。正直読んで後悔に近い感情を抱いた。それでも読んで欲しい。何をどこまで許せるかは自分次第だ。それに自分自身が判断を下すまでもなく、社会的な規範から外れれば勝手に制裁が下る程度には、この世界は上手くできている。けれど、綺麗ごとだけでは成り立たない目を背けたい現実があることは知っておくべきだと思うのだ。

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