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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2023/03/29 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

うみみたい

著者:水沢なお

出版社:河出書房新社

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うみみたい

卵生生物の生殖をケアする『孵化コーポ』でアルバイトをする美大生のうみ。
才能にあふれる同級生みみの『生まれたくなかった』という強い気持ち。
わたしたちはどうしたいのか。どうしたくないのか。

本当はずっと、わたしも思っていたな、とこの小説を読んで思う。
聞いてほしかった。ひとこと。
『生まれたい?』
そしてさんざんこの世界で過ごしてきたのに、知っているのに、勝手なことをしてしまったな。
せめて一言、聞いておきたかった、生む前に。
『生まれたい?』
わたしは生みたかったから生んだけれど、こどもからしたらずいぶん乱暴なことかもしれない。
断りもなく、存在させてしまったこと。

いつからだろう。
生きていることが平気で、むしろ楽しいと思えることが増えたのは。
自分という完全なまるい球のようなものをずっと保っていたかったのに、他者の干渉を許して、あまつさえ増えてみたい、と思うようになったのは。
あのころの完ぺきな、ひびひとつないわたしが遠い果てからそっと見つめてくるような気がします。
人間は、ただ増えるだけの生命ではなくなった。いろいろなものを生み出し、造りたいと思う。体じゃなく心から、なにかを生むことができる。
自分をごっそり減らしてまで、無理に増えなくてもいいと思うよ、と声をかけてあげたい。
心臓はいつまでも勝手に動き、なにもしなくても体内で細胞は死に、増えゆく。
命はおぞましく、いじらしいな、と今は思えます。


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