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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2023/03/20 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

店長がいっぱい

著者:山本幸久

出版社:光文社

ショッピングサイト
店長がいっぱい

店名は「Crossroads (クロスロード)」で決まり!
話は前回(『十八の夏』光原百合/双葉文庫)に続いている。もし自分の店を持つとしたら、という話題である。クロスロードは十字路とか交差点、それも田舎にあるような分かれ道ということらしいが、実はこれ、好きな曲のタイトルだ。

それはMr.Children『CROSS ROAD』…ではない。元々はブルースの定番曲。それをCream(クリーム)時代のエリック・ クラプトンがロックバージョンに変えて演奏し有名になった。1968年のことである。クラプトンに憧れるギタリストなら誰しも、いつかは完コピしたいと夢みたことがあるのではないだろうか。ご存じない方は是非YouTubeで検索して視聴して頂きたい。どうです、痺れません?

店の名前にふさわしいと思った理由は他にもある。クロスロードは道だけでなく、色々な分岐点という意味もあるからだ。自分の店を持つということは大変なこと。決断するには相当な覚悟がいる、さあ、どうする?まさに人生の分岐点ということだ。

その分岐点に立つ時、金銭的なことはもちろんだが、ある程度の若さが必要だ。体力、そして人生に残された時間という意味においてである。
上手くいく、とは限らない。趣味的な店は、むしろ上手くいかないことの方が多いと聞く。ならば早い方がいい。いずれにしても、やり直しがきく年齢の方がいいに決まっている。例えば、定年後に老後の資金をつぎ込んでまで店を開くとなると…安易に始められることではない。
それでも人は夢がみたい。自分の店を持ちたいと冗談半分に伝えてみる。ある人から言われた。
「お前…そりゃあ苦労するど~」

苦労するど・・・くろうするど・・・クロウスルド・・・クロースルド・・・、クロスロード???

文学に理解がなかった父親から「くたばってしめえ」と言われ、二葉亭四迷(ふたばていしめい)というペンネームにした(注:諸説あります)明治時代の文士みたいである。
クラプトンの印象的なギターリフと相まって、このネーミングなんだかカッコいい~、と感じるのは私だけか。

『店長がいっぱい』 山本幸久 光文社文庫

連作短篇。文字通り「店長がいっぱい」出て来る。物語ごとに登場する店長は変わるが、いずれも国内外に総数百二十七店舗を展開する他人丼のチェーン店・友々家の店長というのは共通している。だが、どの店長も事情は異なり、抱えている悩みも違う。
退職して父親の蕎麦屋を継いだがいいがあっさり店を潰して「友々家」のフランチャイズに応募した店長。志を持って「友々家」に就職し若くして店長になったものの癖のある、同年代のアルバイトに苦しめられる二十代女性店長。上司の失敗を押しつけられて遠い異国の地に飛ばされた中年男性店長、離婚した元・主婦の店長、かつて家出青年だった店長…

働いている人、一人でも部下のいる人、中間管理職と呼ばれている人、そして業種は何であれ実際に店長職に就いている人にとっては身につまされる話ばかりだ。なかには店長という立場では、決して笑うに笑えない話もある。
本部対店長、スタッフ対店長、そしてお客様対…読んでいると知らないうちにすべての店長を応援したくなる。彼ら、彼女らの愚痴やボヤキに頷き、ツッコミに拍手している。店長の味方になっているのだ。なので上手くいって欲しいと祈る。やがて訪れる結末に胸を熱くする。
どれもいい話だが、特に後半の4つの話が好きだ。エンタメらしい波瀾万丈な展開、ちょっとハードなところもいい。そして、解説の原田ひ香さんも書かれているが、全話に共通して出演されている本社・フランチャイズ事業部の霧賀久仁子さんがとても素敵だ。霧賀さんに会うために再読したい、とさえ感じる。

もうずいぶん前になるが、個人のアカウントでこんなツイートをしたことがある。
「父の日もいいけど『店長の日』を作って欲しい。日本中のあらゆる店長が、その日だけは休めるのだ。もちろん店長だと証明できれば色んな施設が割引になるのだ。温泉とかカラオケとか。そして居合わせた店長同士が目で会話をするのだ。お疲れさん、明日からまた頑張ろうな・・・」

店長として「いっぱいいっぱい」だった頃だ。先日、カリスマ書店員である店長Mの後を継ぐことになった。さて今度は…

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