おすすめの本RECOMMEND
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2023/04/21 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
コミック
黒猫は泣かない。
著者:寺田浩晃
出版社:双葉社
目を閉じる、耳をふさぐための甘く柔らかい薄皮のようなものが欲しい。疲弊しているわたしにはこの物語は耐えられない。
なのに、どうしてわたしはこの漫画を読んだのだろう。快か不快か選べば圧倒的な不快を感じながらなぜ、何度も読み返すのだろう。
痛くて、苦くて、全然飲み込めない。吐き出してしまいたい。思わず顔を上げた先に空がある。空を見た。何越しでもない、何も挟まないで今、空と向き合った。タイムラグもなしに。
物語の登場人物たち。皆、何かが足りなくて、欠けていて、失っている彼らが前に進める理由を知りたい。足を止めてしまっても無理ないのに。何の言い訳をしなくても、人生はやり遂げることが難しいゲームなのに。間違うために、失敗するために生まれてきたとしか思えない人間というもの。生きるということ。ムリゲーだと思う。リタイヤしてもむしろ普通だと思う。なのになんで。
この物語の中には、わたしの、あなたの1秒、1分、1時間、1日がある。平等に与えられていて、いつしかどうやったかも覚えていないほどに使い捨てていた、生きるということが。
この物語の意味を知りたい。
痛みと共に何度も読み返しています。