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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2023/05/01 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


ノンフィクション

本屋で待つ

著者:佐藤友則 島田潤一郎

出版社:夏葉社

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本屋で待つ

還暦を過ぎて再び登板させていただいた私にとって、現在の店長業務はわからないこと、出来ないことだらけだった。
情報の収集並びに発信だけでなく、社内外の会議をはじめ各種の報告や連絡、悩み相談までもインターネット経由に変わっていた。今ごろ、と笑われても仕方ないが、その現実に大いに戸惑った。
そしてコロナ禍を乗り越え、過去にこだわらず新たな商材、新たな仕組みを模索している現役の若い店長との意識の差、また適応力の差を感じた。

はじめてのリモート会議ではセッティングも操作方法もスタッフに教えてもらった。ささやき女将…とまではいかないにしても横で見守ってくれ、無事終了したあとは拍手までしてくれた。うちのスタッフはみんな年寄りにやさしいのだ。

初めて店長になったのは30歳のときだった。福山の本通りの店だった。その時もわからないことばかりだった。もともと数字に弱いので予算組みの時期には特に苦しんだ。当時キャスパ店の店長をされていた一年先輩の児玉さんに教えを乞うことにした。
電話でお伺いすると「今じゃったらええよ~」と言われ、配達用の自転車で急いで向かった。

30年前、Windows 95もまだ登場しておらず、パソコンは今ほど一般的ではなかった。なので資料の束と電卓を抱えて行った。
「も~ナガちゃん、そこから教えんといけんのか~」とあきれながら笑っていた児玉さん。でも資料を基に毎月の数字を追いながら、具体的かつ詳しく説明して頂いた。

児玉さんは私に教えながら周りのスタッフに何度も声をかけていた。それは指示するというより話を振る、あるいは質問するという感じだった。スタッフは店長に対する節度を保ちながらも気さくな感じで受け答えをしていた。良好な関係性が見て取れた。
うらやましかった。どうしたらあのような雰囲気を作り出せるのか…

ちなみにその時、児玉さんが声をかけていたスタッフの中に前店長Mもいた。今回、店長業務の引継ぎをしてくれたのも彼だ。
児玉さんと同じく「え~そこからですか~」と思っていたのに違いない。

町の人たちがなんでも相談にくる山間の本屋、「ウィー東城店」。地域の小売店の可能性と、そこで成長する若者たちの姿を描く。

『本屋で待つ』 佐藤友則 島田潤一郎 夏葉社

昨年末、本書を読み「ウィー東城店」にお伺いしたことがある。その時、店の感じは全く異なるのに、あの頃の児玉さんとキャスパ店を思い出した。店頭で佐藤さんと思しき方がスタッフと話をされているのを聞いたからに違いない。

私が持っている『本屋で待つ』には佐藤さんのサイン、そして「より良くなるために」と書かれている。
私も「より良くなるために」、もうひと頑張りさせてもらおうと思う。

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