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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
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2023/05/29 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
ノンフィクション
電車のなかで本を読む
著者:島田潤一郎
出版社:青春出版社
このコラムを書き始めたのは14年前、2009年2月でした。今回で213冊目のご紹介となります。
コラムを始めるにあたって「少なくても月に1回(1冊)は更新(紹介)する」という約束だったのですが、振り返ってみるとひと月どころか年に1冊しか紹介していない…ということもありました。
それでも平均すると辛うじて月に1冊以上にはなりますので、なんとかお許し頂けるのではないかと思っています。
なぜ唐突にこのような話を始めたかと言いますと、紹介する本が重ならないように調べていて、あることに気付いたからです。
コラムを始めてちょうど10年目の2019年2月の時点では、紹介させていただいたのは100冊にも満たない96冊でした。それが今回の213冊になるまで増えました。いったいこの4年間で、私の身に何が起きたのか?
更新を心待ちにされているコアなファン(?)である皆さんなら、もうおわかりですね。現在の西条店勤務となり、電車通勤になったからです。乗り換えの待ち時間も含めると往復で約2時間30分、毎日それだけの時間を読書に費やせるのです。
まあ、その気になれば…ではありますが。
ということでこの度ご紹介するのは、そんな毎日の“通勤快読”にぴったりな1冊です。
『電車のなかで本を読む』 島田潤一郎 青春出版社
島田さんの著作は、今年1月10日に『あしたから出版社』(ちくま文庫)をご紹介させて頂きました。
こんなこと言ったら変なオヤジと思われるかも知れませんが、コラムで紹介するとその本の出版にちょっとだけ絡んだ、あるいは携わった、という感覚に浸れます。
それは単なる勝手な思い込みで、もちろん実際は一切関係なく、著者の方や出版社の人にしてみたら「そんなん知らんがな…」と言いたいところでしょう。でも何故か親戚とか身内にでもなった感じを得るのです。
『電車のなかで本を読む』では、その感じが更に強まりました。本書に掲載されている原稿のほとんどは、島田さんが高知新聞社の発行されているフリーペーパー「K+」に連載されていた読書エッセイです。毎回、最初に身の回りの出来事やこれまでに経験されてきた事柄を綴られ、その後、本の紹介に繋がっていきます。
インターネット上とはいえ文章を発表している物書きの端くれ(大げさですが)として、その綴り方と内容にシンパシーを感じ、親しみを覚えたのです。
本書のすべての文章は、「本を読む習慣のない、高知の親戚たち(島田さんは高知県生まれ)に向けて」書かれているそうです。まさにその通りの丁寧でわかりやすい、やさしさに溢れた文章でした。言ってみれば、島田さんの誠実な人柄そのものが文になっていると感じられるのです。
第三章「子どもと本」では、島田さん一家の日々の暮らしぶり、お子さんたちの様子、そしてお子さんたちへの向き合い方がよくわかります。子育ての日々を泣きたくなるほど「大変」の一言に尽きる、と表現されている一方で、たとえば夜の桜並木の下を息子さんが駆けていく姿を見ると、「夢のようだ」と書かれています。
ぼくは「あぶないよ」と息子の背中を追いかけながら、強烈な幸せを感じています。
小さな肩。細い腕。彼のためならなんでもできると思います。(本文より)
このエピソードから続けて紹介されているのは、庄野潤三の『夕べの雲』(講談社文芸文庫)です。
丘の上の一軒家に暮らす五人の家族の日々を綴った物語。なにか特別な事件が起こるわけではないにもかかわらず、生きることの喜びに満ちている奇跡のような小説。
島田さんは、「『夕べの雲』が日本文学のひとつの到達点のように思えてなりません」、そして「子育てが大変なときにはいつも『夕べの雲』のことを思います」、「小説は、大変な生活の日々の支えになるものだと思っています」と締めくくられています。
『夕べの雲』を読みたくなったのはもちろんですが、困ったことになりました。取り上げられているすべての本に対して、そう感じるのです。
本を紹介するとは、こういうことなのだと感じました。
ちなみに最後の第四章「本から得られること」、その締めくくりが本書のタイトルにもなっています「電車のなかで本を読む」です。
そこで紹介されているのは絲山秋子さんの『夢も見ずに眠った。』(河出文庫)です。
私も『夢も見ずに眠った。』をコラムで紹介(2019年2月27日・更新)しています。例によって「うちの奥さんは・・・」という内容です。読み返してちょっぴり恥ずかしくなりました。
それでも本を読んで感じたこと、これがいいと思ったエピソードを書いたんだけどなぁ・・・
島田さんが「ひとり出版社」である夏葉社を創業されたのは2009年。最初に書いた通り、このコラムの開始も2009年です。もちろんこの二つの事柄に全く関係はありません。それでも2009年に“これまでとは何かが確実に変わった”ということは一緒です。
本の内容とともに、著者との共通点が見つかるだけで嬉しくて、なんだか親近感がわくものだと電車のなかで一人納得していました。