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佐々木大佑 がおすすめする本です。


啓文社全店のスタッフが不定期に更新する「スタッフおすすめ」コーナー。 最新書き込みから順次表示しています。

2023/05/30 更新

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佐々木大佑

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フィクション

檸檬先生

著者:珠川こおり

出版社:講談社

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檸檬先生

史上最年少!目を引く見出しが光って見えた。
この本で小説現代長編新人賞を受賞しデビューとなった作者の珠川こおりさんは受賞当時十八歳。この本を手に取った当時の僕は二十歳か、二十歳を少し過ぎたあたりだったか。今でも大好きで読んでいる漫画『ブルーピリオド』の作者である山口つばささんが確かツイッターか何かでこの本の装画を担当することを公表されていて、それがきっかけでこの本のことを知った。
十八歳で史上最年少での受賞。このことを知ってすぐに本屋にこの本を買いに行った。僕と同年代、いやそれよりも若い人が一体どんな物語を書く?純粋な興味。あと、この胸のモヤモヤはなんだ。派手な見出しと、大好きな漫画家の先生の絵。目当ての本はすぐに見つかった。
家に帰ってすぐに読み切った。一日もかからなかった。だけど、ひどいことに、今思い返すと僕はその時、少し試すような気持ちでこの本を読んでいたように思う。そんな資格はないのに。もうとっくに認められている作品を評価しようとするような姿勢でいた。(恥ずかしい)けれど、最年少ってそういうことなのかもしれない。インパクトがある。そして期待も。それら全てに応える必要もないというのが今の僕の個人的な意見だけれど、発表当時は昔の僕A、僕Bのような意地悪な読者が何人かは世の中にいて、そういう穿った眼差しでこの本を読んでいたかもしれない。まあ、これはあくまで想像の話だ。それに少なくとも僕は、読み終えてすぐに、そんな薄暗い感情を抱きながらこの本を読んでしまったことを物凄く後悔したのだった。

この物語では「共感覚」という感覚が大きなテーマとなっている。音や数字を見聞きすると、それに反応して色が見えたりする「共感覚」を持つ小学三年生の少年と、それに近い「共感覚」を持つ中学三年生の少女・檸檬先生。「共感覚」という周囲の人間にはない感覚を持っていたために偶然繋がり合った二人の交流がつづられる。
見える世界をそのまま描き写すのも、見えない想像上の世界を描き出すのも、どちらも途方もなく難しい。普段読書をしていて、よく分からない部分があったり逆に直接頭に飛び込んでくるような精密な描写があるのを見つけると、そんな文豪チックなことを思ったりするのだが、この本では「共感覚」を持つ二人の目に映る世界、そのありようが美しく色彩豊かに描写されていて思わず息を飲む。けれど、そんな眩むほどに美しい世界を彼らが見ているという事は、ある種とても残酷なことなのだ。鮮やかに色と音を伴い浮かび上がった彼らにとっての日常の風景。彼らに見えて僕らには見えない美しい世界が少年と檸檬色をした少女を孤独に閉じ込めている。

鮮烈、という言葉はこの本の為にある。そう思ってしまうほどに、色々な意味で印象に強く残る本だ。近く文庫にもなるらしい。ぜひ、読んでみて、そして読み終えてから、この物語を書いた作者の年齢や経歴なりに驚いてみてほしい。僕とは真逆の読み方をおすすめする。

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