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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2023/07/02 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

空想の海

著者:深緑野分

出版社:KADOKAWA

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空想の海

11の物語が、どれもすべて違う世界で楽しい。
ミステリ、児童文学、幻想ホラー、掌編小説…。
でもどれもわたしの大好きな、深緑野分さんの描く『人間』の物語だ。

人間の悲しみ。
人間の浅ましさ。
人間の無力さ。
太刀打ちできない大きなものに、変えられない強い運命に、人間はどう立ち向かい、負けるのか。
さまざまな物語の中で、わたしはわたしの心を確かめていきます。
どこまで落ちても大丈夫なように。
そういうのに、慣れていけるように。

なのに変だな。
悲しみの向こうにかつてあった喜びが。
浅ましさの裏にこぼれ落ちたかき集めていた勇気が。
無力さの足元にそれまで積み上げてきた不屈が。
深緑野分の物語の中から、どうしても滲み出してきてしまう。
やばいやばい、見えてきてしまう。
光が。
希望が。

いくつもの扉の向こうに、知らなかったわたしの気持ちを見せてくれる、深緑作品が大好きです。
目を閉じて、開けても、世界はちっとも変っていないけれど。
空想の中に何かがどんどん育ってゆく。
この本は、そういう装置です。

名前も好きです。
深緑     野分
ふかみどり のわき
森に分け入っていくような。
音の響きも好きで、ついつい口に出してしまいます。
小さなおまじないみたいに。


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