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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2023/07/07 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
人生がそんなにも美しいのなら 荻原浩漫画作品集
著者:荻原浩
出版社:集英社
1年365日、1日も欠かさず本屋に足を運んでいる。などと大仰に言ってみたが、それほど大変ではない。
書店で働いているので、出勤イコール本屋に行く、ということになるからだ。
最近はリモートが主なので回数は少なくなったが、会議などで店ではなく東尾道の本社に出社することもある。そんな時は事前に店に立ち寄ることもあるし、終了後に店に帰ることもある。ケースバイケースだ。
ただ時間的にどちらも難しい場合もある。でも出勤日なので一度ぐらいは店に出ないと何だか落ち着かない。なので、ちょっとだけ無理して、そしてスタッフにも内緒で、「来ちゃった…」と店に顔を出すことも、ままある。
店長不在のためか、スタッフの皆さんは何時になく忙しそうだ。でもキビキビと(なんなら普段以上に?)生き生きと立ち働いている様子が見て取れる。
私はと言えば、まるで娘を驚かそうと連絡もせず急に上京してきた田舎のお父さんみたいだ。両手に荷物を抱えて恐る恐る事務所に入る。スタッフは、「えっ!」と驚き、「も~直帰されたら良かったのに」と声を揃える。
私が出社したことで、彼女たちの表情がちょっぴり残念そうに見えるのは、「店長元気で留守がいい」と思っているから、ではない。
「心配しなくても、私たちだけで大丈夫ですよ」と言う意味である…と思いたい。
いずれにしても、このように出勤すれば自動的に書店に行ったことになるので、後は休みの日にどこか別の書店に行けば、365日の本屋通い修行が完遂されるのだ。
今日は啓文社ポートプラザ店に行った。まずはディーン・フジカワ店長の「Manager’s Choice」の棚をチェック。そして文芸書の新刊、新書、ビジネス書、コミック、児童書…ぐるりと店内を回り文庫の新刊棚のところで、思わず「おっ!」と手にしたのが本書だった。
『人生がそんなにもうつくしいのなら 荻原浩漫画作品集』 荻原 浩 集英社文庫
アマゾン川を下ってきた瓶の中には、日本語の手紙が入っていた「大河の彼方より」。93歳の幸子。最期の時を迎えようとする病室に、次々と懐かしい人が・・・・「人生がそんなにも美しいのなら」。4月1日、桜の木の下で会おう。幼なじみの二人が交わした約束「あの日の桜の木の下で」。ほろ苦く愛おしい一瞬や、奇妙でブラックな世界まで、直木賞作家が描く、心に沁みる絵物語。新作描き下しを含む全9編。
直木賞作家が60歳過ぎて漫画家デビュー。と言っても初めて漫画を描いたのではない、と「あとがき」にて著者は述べられている。大学4年生のとき、少年ジャンプの手塚賞をめざして描き始めたとのことだ。
だが早々にあきらめて広告制作会社に就職。35歳でフリーのコピーライターとして独立し、40歳手前で「なんか違うことをやってみようぜ」と書いたこともない小説を突然書き始め60歳で直木賞受賞、そして漫画家デビュー。
「大河の彼方から」と表題作「人生がそんなにも美しいのなら」が良かった。セリフのない「ある夏の地球最後の日」は、絵だけでみせる“これぞ漫画”と言う感じがした。「とうもろこし畑の伝言」は、短編映画みたいで面白かった。
そしてなにより驚いた。今頃と思われるかもしれないが、直木賞作家が漫画家デビュー、それも60歳過ぎて。
毎日書店に通っているのに、知らないことが何と多いことか…