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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2023/09/19 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

少しだけ、無理をして生きる

著者:城山三郎

出版社:新潮社

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少しだけ、無理をして生きる

「本を棚に入れる時は、ぎゅうぎゅうに詰め込んだらいけんよ。指が一本入るくらいの余裕を持たせるんで」
先週のことである。私は中学生に対し、ちょっぴり偉そうにレクチャーしていた。

職場体験学習だったのだ。でも、これはいつ始まったものだろうか?確かにわが家の娘や息子も行っていたが、私たちが中学の時にはなかった。あの頃、大人の社会の内側に触れる機会は、工場や施設を見て回る行事、いわゆる社会見学だった。
ちなみに広島県で学んでいる児童、生徒にとって社会見学といえば東洋工業、自動車メーカーのマツダである。在学中に必ず一度は訪れる。そこでロータリーエンジンに“かぶれ”て帰ってくるのである。
なので我々広島の青少年は、車と言えば「いつかはクラウン…」ではなく、いつかはマツダのロータリーエンジン搭載車なのだ。コスモスポーツでありRX-7だったのだ。

わが店にやって来たのは、「いつかは書店員」と真剣に考えてくれている、とても有難い中学生(男子1名、女子1名)だった。両名共に真面目でしっかりと挨拶のできる生徒さんだったので良かった。というか、教える立場としては、とても助かった。
まずは座学で書店業界のことを説明し、店内を案内しながら本の配置や分類を紹介した。体験学習なのだからと早速に荷物を開け、検品もしてもらった。そしてコミックや文庫を品出ししてもらったのだ。
彼らは初日こそ恐る恐るだったが、2人で役割を分担しながら日ごとにスピードアップしていった。「いつかは・・・」ではなく、すぐにでもアルバイトに来て欲しいぐらいだった。

帰宅して中学生が頑張っている様子を妻に話した。なにげに「中学生なら(自分たち夫婦にとって)子どもというより、孫の世代じゃね」と言われた。
私たちはアラカン夫婦である。娘も息子もアラサーだ。だからといって孫はないじゃろ、孫は…と思いながらシミュレートしてみた。例えば、もし私が23歳の時に子どもを授かり、その子も23歳で子どもを産んだとしたら、孫は今ごろ14歳か15歳…あり得るじゃん!

そんな孫のような中学生からインタビューを受けた。この仕事を始めたきっかけ、一番のやりがい、仕事の上で工夫していること等々。また、どんな中学生だったか、中学生の時にやっておいたら良かったと思うことなども尋ねられた。いやいや、おじさんに昔話を振ったらいけんよ。長くなるから。
そして返答に困ったのは、好きな言葉、大切にしている言葉、いわゆる座右の銘を訊かれたことだ。

頭に浮かんだことは決して言えない。小心者なのにのんびり屋の私が好きな言葉は、「果報は寝て待て」、「棚からぼたもち」、「もっけの幸い」・・・他力本願で中学生にはいかにも不適切だ。そして上手くいかないと、「俺はまだ本気を出してないだけ」なんて自分に言い訳している。とても還暦のおじさんが口にする言葉ではない。情けない限りである。では何が、どんな言葉が・・・

『少しだけ、無理をして生きる』 城山三郎 新潮文庫

大変な無理だと続かない。大事なのは、ほんの少しだけ、自分を無理な状態に置く。つまり挑戦をし続けることなのだ。城山が魅了され、小説の題材とした「落日燃ゆ」の広田弘毅、「男子の本懐」の浜口雄幸、「雄気堂々」の渋沢栄一。彼らは皆、自らの利を計らうためではなく国家のために闘った。真の人間の魅力とは何か。城山三郎が語りつくす。

この本のタイトルを伝えてみた。令和の時代には似合わない古臭い言葉だ。これから流行語になる可能性は皆無だ。何しろ現在は、無理しないための効率化、我慢するより改善する時代だ。
それでも実社会では、いまも体力的に、精神的に「無理する」場面は多い。大人の事情に振り回されることも。なので「もうちょっとだけ頑張ってみる」は、必要ではないかと説明した。これは中学生に贈る言葉であるが、自分に贈る言葉でもある。

そうだ、もう一つあった。「本はバックルームで売れているんじゃない!店頭で売れているんだ!」
入荷品は素早く店頭に出しましょう。

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