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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
政宗九がおすすめする本です。
某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。
2023/09/26 更新
あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
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フィクション
あなたが誰かを殺した
著者:東野圭吾
出版社:講談社
東野圭吾さんの新作のタイトルは、『あなたが誰かを殺した』。
加賀恭一郎シリーズです。
このタイトルだけで、東野ファンのミステリマニアなら「あっ」と思うはずです。
そう、加賀恭一郎シリーズの『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』を想起させるからです。
どちらも、ラストまで読んでも真相が書かれていない、真相を読者に推理させる小説で、特に『どちらかが彼女を殺した』発売時には大変な話題になりました。
今回の『あなたが誰かを殺した』は、残念ながら読者に推理させる趣向ではありませんでした。が、本格ミステリど真ん中の傑作であることは間違いありませんでした。
閑静な別荘地。別荘を所有する複数の家族が夏の同時期に集まり、バーベキュー・パーティーが開かれます。例年通りの楽しい雰囲気をぶち壊したのは、突然乱入した男による連続殺人でした。男はその後、ホテルのレストランで食事をし、「警察を呼べ、あの事件の犯人は俺だ」と支配人に告げたのです……。
犯人は分かっている。しかし、なぜ愛する家族が殺されなければならなかったのか。この事件の真実が分からない当事者たちは、ホテルに集まって事件を検討する「検証会」を開催することに。そこに、たまたま当事者の一人の知人で、長期休暇中だった、「あの」加賀恭一郎がいました。加賀は検証会の進行役となって真相を追求していきます。
最初こそ、別荘の家族たちが多くて戸惑うかもしれません(相関図を作ることをお薦めします)、が心配は無用。どの登場人物も徐々に個性が出てきて、混乱することはないでしょう。中盤、新たな事実が明らかになるたびに場の空気が変わるくらいの変化が何度も訪れます。ちなみにタイトルの「あなたが誰かを殺した」も、非常に重要なキーワードとして登場し、それがまたストーリーを大きく変えていきます。
後半からクライマックスは、もうガチガチの本格ミステリ。加賀恭一郎はエルキュール・ポワロばりに、関係者の前で語ります。そこで語られる真相とは?
読み終えると、思わずため息を漏らすかも知れません。なんとも言えない感情が沸き起こりますが、同時に、ミステリの傑作だと確信するはず。
東野圭吾さんといえは、今や出す小説すべてがベストセラーになる国民的作家ですが、その東野さんでも、常にミステリ界のトップランナーであり続けようとする姿勢には、感動してしまいます。
加賀恭一郎シリーズは多数の作品が映像化されたためか、加賀恭一郎の姿や声が、どうしても阿部寛さんで脳内再生してしまうのは、もう仕方がないでしょうか……。