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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
政宗九がおすすめする本です。
某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。
2023/10/27 更新
あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
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ノンフィクション
あのとき売った本、売れた本
著者:小出和代
出版社:光文社
いつもミステリの紹介をしている当コラムですが、今日は番外編です。
小出和代さん『あのとき売った本、売れた本』(光文社)を紹介します。
小出さんは、紀伊國屋書店新宿本店という、おそらく日本一本が売れる書店で、文芸書担当として25年間勤務されていたそうです。
2019年に退職され、現在は書評活動などをされています。
その小出さんが書店員生活の中で出会った作品や作家のエピソードを紹介しているのが『あのとき売った本、売れた本』です。
私も時期的にはほぼ被っているので、ああ、この本売れたよね、と懐かしくなります。
東野圭吾さんの『名探偵の掟』を紹介した項では、こんな一文もあります。
「今でこそ東野さんはベストセラー作家だけれど、当時はまだ目立つ人ではなかった。一定のファンが買ってしまうと、そこで動きが止まってしまう。でも、『名探偵の掟』は発売されてからずっと、妙に売れ続けていた。これはもしや、大化けするのではないだろうか」(122ページ)
これ、めちゃくちゃ共感するんですよ。東野さんが売れてなかった頃なんて、今では想像できないかも知れませんが、本当に、ファン以外には売れない時代があったのです。
この『名探偵の掟』でブレイクして、その後の『秘密』と『白夜行』で、東野さんは本当に「大化け」することになるのです。
こんな「現場の感覚」も事細かに書かれているのが本書です。
実は私は、小出さんと面識があります。
でも最初にお会いしたのは書店員としてではなく、ミステリファンが泊りがけで集った某イベントで、〇〇さん(ハンドルネーム)として認識していました。
その後、実は書店員で、しかも「あの」新宿紀伊國屋の人だ、と知ってビックリしたのを覚えています。
それからは、本屋大賞などで時々お会いしたりしてました。
桜庭一樹さんの『GOSICK』を紹介した項で書かれている、
「桜庭さんとは、『少女には向かない職業』が出版された頃の作家+書店員交流会で出会い、」(37ページ)の交流会には、実は私も参加してました。米澤穂信さんともご一緒だった交流会でした(あの会を指しているなら、ですが)。
さて、私がなぜ本書を紹介しているのか。
宮下奈都さんの『スコーレNo.4』を紹介したコラム「ツイッターで秘密結社」に、私が登場しているからです。
「2010年5月初め、「ここに集う書店員で一緒に何かやれないかな」とツイートしたのは、まさむねさんというアカウント名の名物書店員だった。すぐに複数の書店員たちが、面白そう! と手を挙げた。「書店員秘密結社」の結成である。」(193ページ)
そうです。私の呼びかけがきっかけで、秘密結社が作られ、宮下さんの『スコーレNo.4』がプッシュされることになりました。
私の感覚では、ほぼ間違いなく、この時のムーブメントが、数年後に『羊と鋼の森』の本屋大賞に繋がっていると確信しています。
書店員秘密結社は、それほどにエポックメイキングな出来事でした。
この出来事を紹介してくださって、本当にありがたいと思っています。
書店員にとっても、本が好きな人にとっても、楽しく読めるエッセイ集だと思います。
ぜひ読んでみてくださいね。