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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2024/01/15 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
ノンフィクション
本屋、ひらく
著者:本の雑誌編集部
出版社:本の雑誌社
三十数年ぶりに夫婦2人だけの生活となった。娘と同じく息子も海外に旅立ったのだ。『青年は荒野を目指す』(五木寛之/文藝春秋)ものだが、わが家の青年が向かったのは台湾である。
あれ?台湾といえば既に・・・そう、コラムを読まれている方はご存じだろう。台湾男子と結婚した娘、息子にとっては姉が住んでいるかの地である。
コラムを遡ると娘が台湾に渡ったのは2014年だった。早いもので今年10年目である。最初は半年間の語学留学と聞いていたのだが、その後ワーキングホリデーを利用してそのまま台北で暮らし、2018年に台湾男子と結婚した。いまは台中に住んでいる。ちなみに10年もいると日本語より中国語の方が話しやすいそうだ。それでも私たちが相手だと彼女の備後弁は健在だ。地元福山のことを忘れているわけではないと安心した。
息子はそんな姉の生き方を見ていながら、これまで語学にも海外にもあまり興味はなさそうだった。それが昨年の夏、一緒に働いているフィリピンの方の十数年ぶりの帰省に同行させて頂き、心境の変化があったようだ。ジンベエザメと泳いだり(動画を見せてもらったがデカい!)観光を楽しみながらも、ワーキングホリデーが利用できる30歳まで残り1年半となった自身の将来について何か思うところがあったのだろう。仕事を辞め、海外への語学留学を決めた。
といっても息子はフィリピンではなく台湾を選んだ。姉夫婦の家に居候して語学学校に通うことにしたのだ。長男といっても弟くんであり、二人だけとはいえ末っ子の息子。要領がいいというか無理はしないというか、彼らしい選択だと思う。
そんなわけで二人の子どもは台湾で、私たち夫婦は日本で穏やかに新年を迎えるはず・・・だったのだが、両親が淋しがるとでも思ったのか、娘夫婦が年末年始を日本で過ごそうと帰国した。よって息子は台湾で1人お留守番。行ったばかりなのに大丈夫か、とても心配だ。
「じゃあ今どうしているか見る?」と娘はスマホを取り出した。飼っているオカメインコの様子を観察するためにペットカメラを設置しているのだという。カメラの向きもスマホで操作できるそうだ。画面を覗き込むと娘夫婦の台湾の自宅リビングが映し出されており、すっかりくつろいだ様子で日本のTV番組を見ている息子がいた。
「ちゃんと餌あげてくれとるんかな?」と弟より愛するオカメインコの心配をしている娘。確かに画像を見る限り日本にいる時の息子と何ら変わらない。むしろ、うるさい母も姉もおらず、リラックスしている。
なんなら「ご飯できたよ~」とか「お風呂入れよ」と呼びかけたら、すぐにでも部屋からこちらに出てきそうな近さを感じる。改めてインターネットとは凄いものだと思った。
台湾で留守番中の息子には申し訳ないが、私たち夫婦と娘夫婦とで旅行に行った。しまなみ海道で四国に渡り今治へ、そして松山で一泊した。道後温泉の本館は保全修理中だったが霊の湯だけは入浴でき、別館の飛鳥乃湯、椿の湯とはしごした。
名物の鯛めしを堪能し、翌日は松山城を訪れた。山頂にある本丸にはリフトを利用したが、娘は途中で復路のチケットを落としてしまった。旦那である台湾男子はさりげなく自分のチケットを差し出し、自身は山道を走って降りた。さすが女子に優しい台湾男子である。お昼は、これまた名物の鍋焼きうどんを食し、今回の旅行で私が一番楽しみにしていた書店「本の轍」さんへ向かった。
「書店が減っている」といわれる中で、新しい本屋を開く人たちがいる。そんな22人がリアルな言葉で綴る、本屋への想いと商いの日々。『本屋、ひらく』(本の雑誌社)
今回の旅行も例によって娘夫婦が全て手配してくれたが、松山に行くなら是非ここに、とリクエストしておいたのだ。
扉を開けゆっくりと店内に入る。白を基調とした棚に一冊ずつ丁寧にビニールカバーがかけられている本が並んでいた。小山田浩子さんの『パイプの中のかえる』と『かえるはかえる』のサイン本が平積みされていた。
私は、『本屋なんか好きじゃなかった』(日野剛広/十七時退勤社)と「本の轍」店主の越智さんが編集されたZINE『Neverland Diner 二度と行けない松山のあの店で』を購入し静かに店を出ようとした。
だが、レジで娘が『二度と行けない松山のあの店で』について質問して、越智さんと会話を始めた。後で聞くと「お父さんはどうせ恥ずかしがって話しかけれんじゃろ、じゃけぇ代わりに聞いてあげた」と言われた。まあ、その通りだけど…
書店業界のこと、松山のこと、広島のこと(越智さんは広島で働かれていた)など穏やかに話をされた。こうして店に来られた旅行者の方と話をするのが好きなんです、とおっしゃられていた。
最後は「実は父も書店員なんです」と紹介までしてくれた娘に感謝しつつ、「二度と行けない松山のあの店」ではなく、必ずまた訪れたいと思いながら店を後にした。
考えれば娘夫婦と息子と一緒に5人で・・・というより、夫婦二人の方が動きやすいのだ。単純に都合を合わせやすい。これからはもっと二人で出かけよう。書店巡りをしよう。なんなら今流行りの車中泊をしたっていい。まさに「昨日はクルマの中で寝た あの娘と手をつないで・・・」(スローバラード/RCサクセション)である。
それに今年こそは台湾に行きたい。娘と息子のいる台湾に。「本さえあれば、日日平安」㏌台湾。乞うご期待。