すべての人間は必ずいつか死ぬ。頭ではわかっているが、普段気づかないよう考えないよう暮らしている。死と背中合わせのパートナーや家族にかける言葉はあるのだろうか。
　2020年6月から朝日新聞に連載されていた小池真理子さんの、夫の病と死に向き合ったエッセーがこのたび文庫化された。夢でもいいから逢いたいと切望する一節にはエッセーを超えて確かにラブレターだった。
　経験の浅い私に著者は教えてくれる。どんな慰めの言葉をかけようが同じ経験をしないと、真にその人の気持ちは理解できない。わからない。正解などない。しかし読んでいると伝わってくる。降り積もる哀しみが、孤独な叫びが、後悔が、絶望が波のように押し寄せる。号泣。
　美しい折々の季節の描写や猫たちの動きが年をとることの無い夫の輪郭を際立たせる。人生でかけがえのないものを失った時、この本はそっと寄り添ってくれるだろう。