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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2024/03/04 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
コミック
うみべのストーブ 大白小蟹短編集
著者:大白小蟹
出版社:リイド社
先月のこと「ふくやま文学館」の特別展『没後30年 座談の名手・井伏鱒二』(期間:2023年12月22日(金)~2024年3月3日(日))に妻を誘った。彼女の答えは、「今日は用事があるから一緒に行けないけど車で送ってあげる」だった。「連絡くれたら迎えに行ってもいいよ」とも言われた。
1人行くのも何なので「なら別の日に…」と提案したが、「こういうのは思い立った時に行った方がいいよ」と背中を押され、見に行くことにした。
ひとりなので時間を気にせず自分のペースでゆっくりと見てまわれた。おかげで有意義な時間を過ごせた。受付の横には井伏鱒二や太宰治の関連書籍の販売コーナーが設けられていた。もちろん島田荘司さんや福山ミステリー文学新人賞の歴代の受賞作品も。思わず購入しそうになったが、私は啓文社に勤める書店員だ。地産地消ではないが、自店自買?しなければと福山の啓文社各店を思い浮かべていたらふと寂しくなった。そうか、あの店はもうないのか…
児玉憲宗さんの著書『尾道坂道書店事件簿』(本の雑誌社)から、コア春日店(2024年1月21日閉店)に関する記述を引かせて頂く。
「1987年、啓文社は、福山市郊外にコア店を出店することになる。駐車場を持ち、二フロアで売場は二百二十坪。一階は、書籍・雑誌と文具。二階は、コミック、学習参考書、児童書とレコードレンタル。啓文社の中で最大となるコア店には、福山本通り店から世良店長が着任した。そして、わたしも、世良店長からコア店スタッフとして呼ばれる」
(店名変更されたのでコア店とコア春日店は同一店舗)
「とにかく近隣の他書店と同じことは絶対にしたくないという気持ちが強く、独自のイベントやブックフェアを月替わりで開催した。ライバルのブックシティ啓文社は入口を入ると、新刊、ベストセラーコーナーだったが、コア店の入口を入った場所は、催事コーナーだった。店長は、(売上を稼ぐ)実をとるフェアと、(売れなくてもいいからおもしろい)名を取るフェアを交互にやろうと言い、スタッフからもどんどん提案させた」
「お祭り好きのわたしも積極的に企画した。ジョン・レノンの命日に合わせた『ビートルズ』フェアでは、開催期間のBGMにジョン・レノンやビートルズだけを流し、『スタンド・バイ・ミー』を鼻歌まじりで気持ちよく仕事させてもらった。野田秀樹、鴻上尚史、北村想、如月小春、山崎哲などの著書、劇団の戯曲、パンフレットなどを集めて『小劇団フェア』なども採用してもらったが、そういえば、なぜか、わたしの企画したフェアは、『名をとるフェア』にまわされていた」
現在では「実を取る」方が優先される。「それを言っちゃあ、おしまいよ…」と思われるかもしれないが、とにかく売上が欲しいのである。話題の映像化作品、TVで紹介され急にお問い合わせが増えた健康書、ご予約が殺到している表紙違い、付録違いの特別号の雑誌、もちろん○○賞の受賞作やベストセラーコミックのシリーズ最新刊など、確実に売れが見込めるものをジャストインタイムで品切れさせないよう在庫を持ち、一等地に置き、より多く売る。
でも私たちは「歌を忘れたカナリヤ」ではない。「名を取るフェア」を忘れたわけでもないのである。お客様はもちろん、自分たちも楽しめるフェアに取り組みたいのである。
ということでTBSラジオの人気番組「アフター6ジャンクション2」(通称アトロク2)で、年に一度、一ヶ月間、日替わりゲストがオススメの本を紹介する恒例企画「アトロク秋の推薦図書月間」でご紹介された本のフェアを開催中(岡山本店、ポートプラザ店、西条店の3店舗)です!
と言えば聞こえがいいが、フェア案をお借りしただけに過ぎない。さらに私が勤務する西条店では前任の店長M(現在岡山本店の店長)が昨年実施されており、今年もどうですか、とお声かけ頂き便乗させてもらったのだ。
なので厳密には、かつてオープンから間もないコア店で、店長以外はほぼ全員20歳代の若いスタッフ(児玉さんは私より1年先輩なので当時26歳ぐらいだったはず)が、情熱をもって企画し実施した「名を取るフェア」と同じとは言えない。
店舗発のオリジナル企画はなかなか難しい、様々な大人の事情もあるし・・・なんて言い訳しても始まらない。オジサンが何を躊躇しているのだ。
本書は「アトロクブックフェア」コーナーから購入。これまでも在庫はあった。なにせ『このマンガがすごい!2024』オンナ編第1位の作品だ。奥付を見ると2022年12月1日初版とある。それでもまだ読んでない者からすれば、出会った時が新刊である。
『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』(大白小蟹/リイド社)
「生活から生まれた絵とことばが織りなす、珠玉の7篇」
なかでも『雪子の夏』が良かった。トラックドライバーの千夏が雪の日に出会った、雪女の雪子。夏のあいだは消えてしまうという雪子に夏を見せてあげたい。
「雪女は、この山の中でしか生きていけない」、そう言われて信じ込まされてきた雪子。
「その人たちは、実際やってみたことあんの?」、「・・・ないと思う」、「じゃあ、やってみなきゃ わかんないじゃん」
千夏の言葉に後押しされ、雪子の忘れられない夏が始まる。
手元に置いて時々読み返したくなる本に出会えるのである。お客様もスタッフも、きっと楽しめるはずである。
「名を取るフェア」、やっちゃろうや!