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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2024/04/01 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
カキフライが無いなら来なかった
著者:せきしろ 又吉直樹
出版社:幻冬舎
朝起きると、まずは妻をハグする。いわゆるモーニングハグである。背後からそ~っと近づく。気配を感じた彼女は振り向きざまにグッと腰を落とし、脇を締めて前進してくる。俊敏な小兵力士のように。あっ!という間に私は寄り切られてキッチンから押し出される。
なので最近妻のことを親方と呼んでいる。
モーニングハグというより朝のぶつかり稽古
親方に福山駅まで送ってもらい、いつもの電車に乗る。JR春のダイヤ改正で少し時間が変わっているが大きくは違わない。糸崎駅で乗り換えの車両を待っていた。やって来た電車は、これまで4両編成だったのが6両に変わっていた。なるほど変わるのは時間だけではないのか、勉強になった。
でも乗客の皆さんの多くは、何故だかこれまで通りの車両に乗り込んだ。そのため混んでいる車両と空いている車両とに分かれたのである。電車通勤のベテランである私はもちろん・・・
次は空いている方に乗ろうといつもの車両に向かう春
今度は決めていたとおり、あらかじめ一番後ろの車両と思われるところで電車を待っていた。右を見ると相変わらず皆さんいつもの場所に固まって待っている。変化に適応するものだけが・・・ダーウィンの言葉を思い出し優越感に浸る。
やがて一人、二人と私の後ろに並ぶ人が現れた。その時ふと思った。もしかして、あの6両はその日だけだったのでは・・・
いちど不安になると最悪のことばかり考えてしまう。前のように4両編成の電車が来て、私の後ろに並んでいる人たちから睨まれたりしないだろうか。も~なんだよ!とか、最低~とか罵声を浴びせられるのでは?
ひとり想像しては鼓動が激しくなる。
「まだ時間あるな缶コーヒー買おう」と小声でつぶやき離れる
もちろん、そんな勇気はない。
五七五の形式を破り自由な韻律で詠む自由律俳句。妄想文学の鬼才と、お笑いコンビ「ピース」の奇才が詠むセンチメンタル過剰で自意識異常な自由律俳句四百六十九句。散文二十七篇と著者二人の撮影による写真付き。笑いツボと涙腺に効果的。
『カキフライが無いなら来なかった』 せきしろ×又吉直樹 幻冬舎文庫
本書からいくつかご紹介。
間違えたビニール傘に知らない人の温もり
求められてもいないのにアンサーソング
醤油差しを倒すまでは幸せだった
ほめられたことをもう一度できない
あの人はOBなのか気にしながら部活
本当だ太宰も安吾も濁音だ
読んでいると自分でも自由律俳句を作りたくなった。コラムを書きたくなった。
休みのたびにコラムを書こうと誓う今日は4月1日