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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2024/05/22 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

麦屋町昼下がり

著者:藤沢周平

出版社:文藝春秋

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麦屋町昼下がり

書店員である私は、GWなど世の中の連休を外して平日に休みを取ることが多い。行楽地に出かけても混み合ってないのは良いのだが、反面イベントもなく閑散としていて少し寂しく感じることがある。行きたかった店や施設が店休日や休館日のため残念な思いをすることもある。だが、こうして妻と一緒に出かけられるだけで幸せだ…とこのコラムを読んでいるであろう妻に伝えたい。

「夫婦で一緒に出かけよう!」キャンペーンを絶賛実施中の私たちは、妻の実家がある鳥取県米子市に向かって車を走らせた。いつもは福山から182号線を上っていくが、今回はやまなみ街道(中国横断自動車道 尾道松江線)で行くことにした。「やまなみ」というだけに周りを見渡せば山、山、山、そして緑、緑、緑、、、「♪緑の中を走り抜けてく真紅(まっか)なポルシェ」、ではなくカーキ色のスズキ・スペーシア。「走れ!かぞく思い」芦田愛菜ちゃんがCMで絶賛している軽自動車である。

せっかくなのでと直接米子には向かわず、一畑電車を左に宍道湖を右に見ながらドライブを楽しみ、湖畔に広がる花と鳥の楽園「松江フォーゲルパーク」に立ち寄った。
エントランスに入ると、まるで笑っているかのような細い目をした白いフクロウが出迎えてくれた。ホンマに動かんな~とハシビロコウの前でしばらく立ち止まり、「もうすぐバードショーが始まりますよ」と係の人からご案内頂いたので芝生広場に行った。

空いていたので中央の一番前の席に座った。バードショーと言えば、ワシとかタカなど大型の猛禽類が客席の前をダイナミックに飛行するあれである。TVでは見たことがあるが、実際に見るのは初めてだ。MC担当の飼育員さんから、ショーが始まったら席を動かないで、立ち上がらないでと厳重に注意された。動いていると攻撃される可能性があるようだ。ちょっと怖くなったので素早く席を移り、妻の真後ろに座った。もちろん、いざというときに彼女を盾に出来るからである。

ショーが始まった。これから登場する鳥に関する簡単な説明の後、「お客様にお手伝い頂きたいことがあります。どなたか…」と言い終わらないうちに食い気味で「ハ~イ、私やります!!」と妻が手を挙げた。
な、な、何を張り切っとんねん。おいは恥ずかしか~ここは他人の振りしとこ・・・と思っていたら、「しっかり撮ってよ!」と勇んで彼女は前に出て行った。まあ、こんな妻だから私は毎日楽しく過ごせるのである。

大きなタカを腕に止まらせて「重っ!」と言いながらも記念撮影までした妻から、次は国宝・松江城に行きたいと希望され訪れた。そう言えば年始の家族旅行では四国の高松城と松山城に行った。今年は何だかお城づいている。「松江城の次は足立美術館ね」と言われたが、もう夕方になったので途中のスーパーで割引されたお寿司のパックと缶ビールを買い込んで妻の実家に向かった。

コロナ禍もあり5年ぶりだ。妻と義姉が楽しそうに話している。ビール片手でなければ、まるで女学生(だいぶ無理があるけど…)。でも仲が良いはずだ。彼女たちは正真正銘本物の同級生、それも大親友だ。義兄は、家によく遊びに来ていた妹の友だちをお嫁さんにもらったのである。
お酒がダメな私は、いつものように義兄の部屋に行き本棚を拝見させて頂いた。壁面に備え付けられた棚いっぱいの本、本、本、義兄は大がつく読書家だった。

上段は文芸書、今はそう見ることもない箱入りの豪華本もある。下段はスライド式で奥があり2重になっている。そこには時代小説を中心に大量の文庫本が並んでいる。山本周五郎、池波正太郎、司馬遼太郎、藤沢周平、吉村昭・・・ハッキリ言って私の店より充実した品揃えである。それぞれ奥付のところには義兄が読了した日付を書き込まれている。残念ながら、それはもう増えることは無い。もっと本の話をしたかった。

『麦屋町昼下がり』 藤沢周平 文春文庫

不伝流の俊才剣士・片桐敬助は、藩中随一とうたわれる剣の遣い手・弓削新次郎と、奇しき宿命の糸にむすばれ対峙する。男の闘いの一部始終を緊密な構成、乾いた抒情で鮮烈に描き出す表題秀作の他、円熟期をむかえたこの作家の名品を三篇。時代小説の芳醇・多彩な味わいはこれに尽きる、と評された話題の本。

藤沢周平を読み始めたのは、酒席を抜け出し義兄の本棚から拝借したのがきっかけだ。結婚したのは27歳だから、20代、30代、40代、50代、そして還暦を過ぎた現在まで何度も読み返している。読み返せる本を手元に置いておけるのは幸せである。一生のうちに何度も読み返せる本に出会えたことは、本当に幸せである。妻と出会えたように。

米子から帰る前、義兄も通われていた「学校」と呼ばれている書店にお伺いした。これまで年に1回、2回ではあるが、妻の実家に帰省するたびに寄らせて頂いたお店である。今回は間があいてしまった。これからは頻繁に通いたい。
なので、このコラムを読んでいるであろう妻に問いたい。今度いつ行く?

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