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啓文社全店のスタッフが不定期に更新する「スタッフおすすめ」コーナー。 最新書き込みから順次表示しています。

2019/10/07 更新

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ノンフィクション

むらさきのスカートの女

著者:今村夏子

出版社:朝日新聞出版

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むらさきのスカートの女

 今年の夏は長くて秋物の洋服の売れが遅かったので私が勤務しているショッピングセンターは売上不振に見舞われていたけれど、朝夕が涼しくなって急に秋めいてくると、とたんに秋物が売れ始めて忙しくなってきた。当たり前の消費行動だけれど、婦人服売場の目に付く所に紫色のスカートは見当たらない。
 今村夏子の書く文章は読みやすい。他の作家と比較してみたわけではないけれど、表現が分かりやすく、どんどん先に読み進めてゆける。決して本を読むのが早くない私がそう思うのだから間違いは無いと思う。
 この本が芥川賞候補になった時、著者が広島県出身ということで身近に感じたのでたまたま文庫化されている『あひる』を読んでみたのだけれど、明らかにされない事実を読み手に想像させる物語と付きまとう不穏な感じ(空気)でできている独特の世界観に引き込まれ、とても面白く読めた。だから芥川賞が決まって「女性をストーカーする女性の物語」と紹介された時には、また不穏感満載の小説なのではという期待感があり、読んだところ実際その通りで面白かったので人様に薦めたくなったという次第。
 近所に住む地域の有名人である「むらさきのスカートの女」に執着している「私」は密かに彼女に付きまとい、観察し、更に彼女に近づくための作戦を次々に遂行してゆきます。その執着は病的で恐怖心も感じさせるけれど、滑稽でもあり、その現実的な非現実感に読み手は引き込まれ主人公に感情移入してしまいます。想像を超えた「私」の行動から目が離せなくなって読むのを止められなくなってきます。さあ、貴方もこの本を読んで「むらさきのスカートの女」が座っていた公園のベンチに腰を下ろし、クリームパンを食べてみてください(あー、恐ろしい)。

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