９０近いおじいさんが主役の話を、気づいたら読み終えていた。
日常の話を読ませる筆力。
本書は今年４０周年を迎えた双葉文庫ベストフェアのラインナップのひとつ。

　主人公の明石新平は大正生まれ。
池袋に一家五人で暮らす。
新平は朝から忙しい。オリジナルの体操をマットレスの上で45分、自分のためにヨーグルト中心の健康朝食を作り、食後は庭の草木の手入れ。
そして手帳に控えておいた建築物を見に散歩に出る。
気に入った店でランチして、家族のために甘いものを買って帰る。
秘密基地では仲間と趣味を楽しむ。なんとも優雅な味わい深い日々だろう。

　しかしそんな日々の中に新平を新平たらしめた追憶が挟まれる。
戦争・結婚・不倫、起業から廃業。そして今、老々介護・８０５０問題…。
個性的な家族にままならないが人生は続く。
なぜか悲壮感はない。淡々と死ぬまで生きる覚悟。
カッと笑う新平に元気と勇気と愛とユーモア。
たくさん教えてもらった。