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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2024/09/26 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々

著者:品田遊

出版社:朝日新聞出版

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納税、のち、ヘラクレスメス のべつ考える日々

6年以上続けられた日記。
そこから2冊目の本が生まれた。
また、星を見上げるような気持ちで開く。
帯に書いてある、
『こちとらこう生きるしかないんだ』
という言葉に眉間がしびれる。


品田遊の日記を読みながら「なんでまた?」「一体どうしたらそんなことに!」などとは思わない。
彼の周りに渦巻いている引力が見えないだろうか。
洗濯機のように前後左右天地よりふいに襲い来る力によくぞ耐え続け波に乗っている…とはいえないけれど、遥か遠くで輝いている姿が見える。
わかる。と思って近づこうとしてはいけない。
共感しようとしたわたしの心を氷で刺し抜いてくる。
声を上げて笑ったり、見事な切れ味に感動したり、見たこともないものに目を丸くしたり、わくわく楽しく思っている読書中、底の方ではずーっとうっすら恐怖をベースに感じている。
どんなにほっこりしても手をかざそうとすれば急なフレアの業火に焼き尽くされかねない。

わたしたちは皆、型を覚えた宇宙人だ。
長く生きていればAにはBを返す、もうだいぶすらすらこなせる。
それでもしばしば自然のままのわたしに嫌になることがある。絶対にこの乗り物は他より操縦が難しいと思う。基本おかしいのは『右』に操作すると100%『左』に向かうこと。まじハンドルおかしい。いっそハンドルを左に前回してやれ!と回すとしっかり左に回って壁に激突したりする。笑われたり怒られたりするのももはや無なんだけれど時々つっっっかれた!疲れた!という時もある。

そんなとき、遠くで燃える、凍てつく星を眺めたくなるのだ。
温度も重力もなにもかもが定まらない無軌道に進み続ける品田遊という星を。

共感はしません。
わたしたちは皆、孤独な星だから。
でもどうしても楽しく、気分がよくなってしまうので、これからも時々は見上げさせて欲しい。


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