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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


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本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2024/11/12 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


フィクション

台湾漫遊鉄道のふたり

著者:楊双子 著  三浦裕子 訳

出版社:中央公論新社

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台湾漫遊鉄道のふたり

台湾に行った。結婚35周年を迎えた私たちを、子どもたちが招待してくれたのだ。娘の結婚式以来なので6年ぶり3度目である。
着いた翌日、現地でも滅多に経験することがない大型の台風が台湾を直撃した。実際に私たちの後の便はすべて欠航。一日遅かったら来られなかった。間一髪で前乗りできた、という感じだ。やはり悪運というか強運の持ち主なのだ。もちろん私ではなく妻が。
彼女と一緒なら怖いものは何もない。一生ついていきたい。

雨の桃園国際空港には台湾生活10年目の娘と、娘夫婦の家に居候してもうすぐ1年、絶賛ワーホリ中の息子が迎えに来てくれていた。娘の旦那である台湾男子はまだ仕事中とのこと。後から合流するらしい。忙しいんなら無理に来んでもええけどな…
娘から指摘された。「お父さん、心の声が漏れとるよ」

到着してホッとしたのもつかの間、今度は息子の運転に不安が募る。手続きを経て台湾でも車とバイクに乗っていると聞く。でも大丈夫なのか?たまにTVで見る台北の通勤風景。バイク集団の映像が頭に浮かぶ。それに道路もハンドルも日本とは左右逆である。私ならパニックに陥る自信がある。

やはり若さだ。息子は手慣れた感じでスマホにナビをさせながら左ハンドルのトヨタカローラ(台湾では日本車が多い)を走らす。地元の人からすればかなり慎重な安全運転で、むしろ遅い(とろい…)と言われているらしい。心配性の私は、不慣れな海外ではそれぐらいでちょうど良いではないかと思う。でも現実には素早く流れに乗らないとかえって危ないし、他の人に迷惑をかけることになる。

運転だけではない。いつの時代も、何処にいても、何をするにして同じだ。グズグズしていると置いてけぼりどころか非難され、蔑まれる。世の中の流れに乗っからないと生きてはいけない。難しいものだ。

飛行機、車と緊張が続いたが、更に婿殿である台湾男子のご両親との会食という最難関が待っている。車での移動中、妻がスマホに向かって何かしゃべっていた。翻訳アプリを入れてきたのだ。日本語で話しかけると、それを中国語に変換して表示してくれる優れモノだという。妻は「お久しぶりです」とか「いつもお世話になっています」などと小声で話しかけ、画面に表示された中国語を「ねぇ、これで合ってる?」と娘に向けた。

「いつでも面倒みてやるぜ!って書いてあるよ、面白いからお義母さんにそのまま見せたら?」と笑っていた。でも、そんな妻のおかげで和やかな日台親善の食事会と相成った。やはり彼女と一緒にいれば幸せな気分になれる。俺は一生ついていくぜ!

話は前後する。着いた当日の夜、士林夜市に行けただけで、翌日は台風の影響でほとんどの観光施設や店舗が休みだった。辛うじて開いていたのはIKEA。妻は「うれしぃ~広島にはないんよ、神戸にまで行かんといけんよ」と喜びながら黄色いかごに商品を入れていた。それ全部日本に持って帰るんか?

その後は、これまた台風の中でも開いていた大型のカラオケ店に向かった。こんな天候では考えることはみんな同じ。とても混み合っている。案内された9階の広めの部屋に入るやいなや、台湾男子の鬼レンチャンが始まった。これではまるでジャイアンのリサイタルではないか!
私が想像するに仕事はもちろん、家にあってはうちの娘に毎日叱られてストレスが溜まっているのではないだろうか。その気持ちはよくわかる。今日は好きなだけ歌っていいよ。
ちなみに娘夫婦のとこも私たちと同じく姉さん女房である。こういうのも連鎖するのだろうか?できれば息子にだけは…

3日目に台風が去った。曇り空だったが、かえって暑くなくてちょうどよかった。やっと観光ができる。まず故宮博物院に行った。日本からの修学旅行らしい団体客もいた。一日では回りきれないほど大きい。有名な肉形石は貸し出し中だったが白菜は見ることが出来た。中正記念堂では儀仗隊の屋外行進を見た。台風の直後ということもあり、残念ながら「千と千尋の神隠し」の世界観を感じられる九份には行けなかった。次回のお楽しみにとっておくことにした。

もちろん食事も楽しめた。名称がわかったのは「小籠包(ショーロンポー)」と「豆花(トゥファ)」の2品だけという知識のなさだが、その他、麺類も揚げ物も焼き物もどれも美味しかった。パパイヤミルク、西瓜汁(スイカジュース)もいただいた。苦手な食べ物は無いですか?と尋ねられたが、いつも妻の作る謎の創作料理で鍛えられているので何でも大丈夫です、と答えた。

そして家族旅行恒例、旅先での書店巡りである。ここは台湾。やはり誠品書店は外せない。広い店内を見てまわる。平台には村上春樹、東野圭吾、小川洋子、宮部美幸、原田比香(「ひらがな」がないので漢字表記)などの翻訳本が積まれている。児童書売場で大きく展開されていたのは『屁屁探偵』。どこかで、と言うより毎日見ているあの表紙だ。でもこの漢字って「おしり」じゃなくねぇ

ブックカフェにも行った。台北の細い路地にある古い建物を改装している奎府聚書店と浮光書店、台中では中央書局に行った。
なかには前述した翻訳本ではなく、私たちが販売しているのと全く同じ本(日本語版というか原書?)も売っていた。記念に買って帰ろうと思ったが、輸入本のためか日本の倍以上の値段がしたのであきらめ、帰国してから自店で購入したのが本書である。通勤電車内にて1週間かけて読んだ。台湾旅行を思い出すというより生涯の記憶に残る一冊となった。

『台湾漫遊鉄道のふたり』 楊 双子 著  三浦裕子 訳  中央公論新社

炒米粉、魯肉飯、冬瓜茶……あなたとなら何十杯でも――。結婚から逃げる日本人作家・千鶴子は、台湾人通訳・千鶴と“心の傷”を連れ、1938年、台湾縦貫鉄道の旅に出る。

台湾グルメ×女たち×鉄道小説ということで、読みはじめは朝ドラのような話かな、と思っていた。女子2人のユーモラスな会話、豪快な食べっぷり、鉄道でめぐる台湾の美しい風景が確かにあった。また今回訪れた地名、店名(台中の中央書局)も出てきて早々に聖地巡礼をしてきた気分にもなった。

だが読み進めると台湾が日本の植民地であった当時、統治する側とされる側という立場の違い、台湾に住む人々のなかにもある格差に歴史の現実を見ることになる。そして、その時代に男性に生まれたか、女性に生まれたかで決まってしまう未来の姿には、現代にも通じる問題が含まれていた。
読後には、「台湾っていいところですよね」と軽々しく言えなくなった。それでも、また訪れたいと思う。今度は本書の2人のように鉄道で旅したい。温泉にも行きたい。

「いつでも面倒みてやるぜ!」は冗談としても、もし台湾のご両親が日本に行きたいと言われたら、私は何処にご案内して何を振舞えばいいのだろうか。鞆の浦、尾道、倉敷だろうか?
まあ何とかなるだろう。明日のことを思い煩うことなかれ、私にはあの妻がいるではないか。一生ついていくよ。

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