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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2025/01/28 更新

いつか読書をする人へ


井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

僕たちの青春はちょっとだけ特別

著者:雨井湖音

出版社:東京創元社

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僕たちの青春はちょっとだけ特別

わたしの子育ての思い出。
一歳児検診。そして二歳児検診。幼稚園入園時。三歳児検診。小学校入学前。そして小学校三年生の冬。
選択を、決断をしなければならなかった。
あるいは、決断を先延ばし続けた。
かわいらしい、小さな歯車。
この子がどこにいてもちゃんと噛み合わなくて、弾かれて、いつもころころとわたしの所まで転がって戻ってくるのは何故なんだろう。
ここではない、そうではない、いけない、よくない…。

わかった。
わたしがずっと手を引いて、先回りして、ひとつも躓かないようにすべての小石を取り除いていけばいい。マイクラもポケカもフォートナイトもわたしと一緒に遊べばいい。
なんてわけにはいかないですよね。
あんなに怖がりだったのに。
わたしの手を放し、ひとりで歩き出す。
行きたい中学を自分で決め、電車に乗って毎日出掛けてゆく。
定期や!スマホや!水筒や!弁当や!傘や!マフラーや!手袋や!お金や!パソコンや!なんかを何度でも失くし損ないながらも!彼は失敗しない、ではなく失敗してもフリーズしない強いハートを手に入れたようです。
そして、助けられるばかりじゃない友達を。


誰だってきっと歯車のどこかは欠けている。
けれどちょっとの欠けくらいだったら構わず噛み合っていける。
それよりちょっと凸凹のある歯車が、衝突したり軋んだり、人と人は違っていてだからこそ揉めたりすれ違ったり分かり合ったり助け合えたりするって、それって、要するに『青春』じゃないか。違いでぶつかり合いそして分かり合うそんなのってまさに『青春』なんじゃないの。

高等支援学校に入学した15歳の青崎架月がその学校生活で起こる謎を解いてゆく、連作学園ミステリ。
架月や学校の仲間たちには苦手なことや出来ないことがある。そして架月だからできることも。特別な才能とかじゃなくても『青崎架月』だからできることがあるんです。それは彼だけじゃなくてわたしたち皆そう。
わたしたちの場所で、ここで、『わたし』だからできることがあります。

『普通』って言葉はあまり好きじゃないけれど。
ごくごくふつうの、いや『普遍』でちょっとだけ『特別』な学園青春小説です。
若者たちがぶつかり合い、迷惑を対等にかけ合って成長していく、ごくふつうのまぶしい、希望に胸が熱くなる物語です。



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