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あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
政宗九がおすすめする本です。
某店店長でもあり、ミステリマニアとしても知られる「政宗九」によるミステリコラム。
これを読めば、あなたもミステリ通です。
2025/02/06 更新
あなたも3分でミステリ通になれる(仮)
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フィクション
世界でいちばん透きとおった物語2
著者:杉井光
出版社:新潮社

2023年4月末に新潮文庫nexの新刊として発売された、杉井光さんの『世界でいちばん透きとおった物語』。発売当時はあまり話題にならず、どちらかといえばひっそりと世に出た作品でしたが、クチコミでじわじわと広がり、気が付けば超話題作としてどんどん売れていきました。今や累計売上50万部だそうです。
『世界でいちばん透きとおった物語』は、ある作家が死ぬ前に遺したとされる小説の原稿を、作家でもある息子が探す物語ですが、実は本そのものに仕掛けがあり、それが大きな話題になりました。もちろん、小説の必要上、その仕掛けがあるわけで、ただネタとして面白い演出をしたのではありません。その仕掛けの謎が明かされる感動的なラストを迎えます。
本そのものの仕掛けは読んでいると誰でも気が付くと思いますが、ミステリマニアの目からすると、こういった仕掛けをやった「偉大なる先達」を何人か思い浮かべてしまいます。もちろん著者の杉井光さんは、その先達への最大級のリスペクトを込められており、それが我々マニアにも充分に伝わってくるので、この小説に非常に感激したのです。
その『世界でいちばん透きとおった物語』の続編が2025年1月末に出ました。『世界でいちばん透きとおった物語2』です。
もしやあの仕掛けを上回るすごいことをやっているのでは……と恐る恐る読みましたが、残念ながらそこまでの仕掛けはありません。いや、前作以上のことをやってきたら、こっちがびっくりします。
では詰まらないかというと、そんなことはありません。私はむしろ『2』の方が傑作だと思います。
前作では「仕掛け」優先のため、いろいろと小説にも制約がありましたが、今回はそこを気にする必要がないため、読みやすく、物語の世界に没入できます。
そして今回も、亡くなった作家が残した小説の謎を解く、という形式になっています。あるコンビミステリ作家の片割れが亡くなったため、雑誌で連載中だった小説が中絶してしまいます。その中絶した3回分の連載が作中作として入り、その謎に挑んだ上で、主人公の作家がそれに決着をつける、という展開で、かなり良く出来ています。
そしてこの「コンビミステリ作家」といえば……日本で活躍した、あのコンビ作家がモデルになっています。巻末の「参考文献」を見ると一目瞭然なのですが、ここではあえて伏せておきましょうか。描かれるコンビ作家のエピソードの数々が完全にモデルとなった作家さんと被ります。私も大好きだったので、思い入れがあります。
ちなみに二人でミステリを書く作家は意外にも結構います。海外ならエラリー・クイーン、パトリック・クェンティン、ボアロー=ナルスジャックなど。国内だと石井竜生・石原まなみの夫婦作家、現在でも大活躍中の降田天さんなどがおられます。
あ、『世界でいちばん透きとおった物語2』のモデルとなった作家さんの名前は書きませんでしたが、もうバレバレですね……。