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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2025/02/15 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
コミック
本なら売るほど 1
著者:児島青
出版社:KADOKAWA

よんどころない理由があり衣料品店をはしごした。まずはお目当ての商品を自分で探す。見つからない。店員さんに聞いてみた。どの店でも返事は同じだった。「申し訳ございません。生憎当店には、そのサイズの在庫はございません」
落胆している私に向け、「もしかすると〇〇店だったら置いているかも知れません」と親切な店員さんが教えてくれる。お礼を述べては教えられた店を訪ねていく。それを見つかるまで繰り返した。
5軒目の店でのこと。これまで訪れた店名をあげては、「○〇にも、○○にも、〇〇にも、あと○○にも行ったけど、このサイズはなかったんです」といかに困っているかを説明した。
インカムで呼ばれて駆けつけてくれた責任者らしい女性から、気の毒そうな表情で言われた。「その全部の店に直接行かれたのですか?大変でしたでしょう。先に電話で在庫確認されたらよろしかったのに」
そ、それな・・・
書店に勤め始めて驚いたのは、お問い合わせの多さだった。店頭はもちろん、電話やFAX、今はメールでもお問い合わせを受ける。小売業なのでお客様から在庫確認があるのは当たり前。それなのに驚いてしまったのは、書店に勤めるまで自分自身が問い合わせをした経験がなかったからである。
社会人になる前も書店にはよく行っていた。だが店頭で問い合わせをしたことはない。注文して取り寄せたこともない。理由は簡単。その必要がないからだ。
「この本屋にある本は全部読んだことがある」な~んてことは、これまで一度もない。どの店も読んだことがない本だらけだ。どんな小さな店でも同じ。なので店内の在庫から選べばよかった。選り取り見取りである。多過ぎてどれにしようかと迷うことはあっても、品揃えに不満をもったことはない。
書店はどこも同じで「金太郎飴」のようだと揶揄されるが、そう感じたこともない。どの書店も似て非なるもの、棚を見ていると表情が違う。優しかったりクールだったり、どうよ!と自慢しいだったり、おちゃめだったり、色んな金太郎がいるのである。
唯一、どの書店でも共通しているのは、「本なら売るほど」あるということだ。
かねてから思っていた。売るほどあるものを売るのだから、難しいことではないだろう。それに書店を訪れる人は、みんな自分と同じようなタイプだろう。ふらっと店に入り、棚をゆっくり見てまわる。気に入った本を1冊、2冊手にしてはレジに向かう。顔なじみになった店員さんと「今日は冷えますね」なんて少しだけ会話を交わして店を出る。人見知りで口下手(今でいうところのコミュ障)な自分でもこの仕事ならできるかも?そんな風に考えて書店に就職した。40年前のことである。
確かに「本が好き」というのが大前提の仕事だった。でもそれだけではない。「本が好き、本を売るのはもっと好き」(児玉憲宗・著 本の雑誌社・刊『尾道坂道書店事件簿』より)でなければ勤まらない仕事だった。
買う方から売る方になり(今も買う方でもあるが)、その難しさを知ることになる。だからと言って嫌にはならなかった。面白いのである。本が売れていくのが。
目線の高さの棚に、表紙を見せて陳列している定番のロングセラー本が売り切れる。空白が出来ていたので、次の補充が入荷するまで何か別の本を展示しようとその上下の棚を探してみる。個人的に好きな作家、読んで面白かった本を見つける。棚に1冊だけ差してあった本を抜き出し、空いたところに置いてみる。もちろん表紙を見せて。
しばらくして、その本がなくなっていることに気づく。データを確認してみる。売れとるやん!
次のフェアが入荷するまでの繋ぎのフェアを考える必要がでてくる。これから注文する時間的な余裕はない。今すぐだ。でも置けるのは短期間。ならば店内在庫から見繕うことになる。この棚から1冊、こっちの平台から2冊とかき集める。この本は左端の手前、これは中央、この隣は…。同じ平台にあるのだから、どこに置いても一緒だと思われるかもしれないが、微妙に売れが違ってくる。本は置き方が9割なのだ。
『本なら売るほど 1巻』児島 青/KADOKAWA ハルタコミックス
ひっつめ髪の気だるげな青年が営む古本屋「十月堂」。店主の人柄と素敵な品ぞろえに惹かれて、今日もいろんなお客が訪れる。本好きの常連さん、背伸びしたい年頃の女子高生、不要な本を捨てに来る男、夫の蔵書を売りに来た未亡人。ふと手にした一冊の本が、思わぬ縁をつないでいく――。本を愛し、本に人生を変えられたすべての人へ贈る、珠玉のヒューマンドラマ。漫画誌「ハルタ」連載時から大きな反響を呼んだ話題作。
その昔、本に挟まれている読者カードのアンケートで「この本を買った理由は?」の回答は、「書店で見かけて」が第一位だった。今でも変わらないと思う。いや、そう信じたい。「本なら売るほど」ある啓文社各店にどうぞ。きっと新しい出会いがあります。