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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2025/04/08 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
文庫
じい散歩
著者:藤野千夜
出版社:双葉社

仕事帰り、福山駅に着いたが待てど暮らせどお迎えが来ない。LINEしても返信はなく、電話しても繋がらない。仕方なく30分かけて自宅まで歩いて帰った。心配だったが、はたして妻はいた。ソファーにて爆睡中だった。
「こんなとこで寝たらいけんよ」と声をかける。私が言うのもなんだが、立てば芍薬、座れば牡丹、横になったら「腰はどこ?」の妻。その丸々としたフォルムが愛おしい。これを夫の欲目という。
と言っても寝ている彼女をベッドまで運ぶのは100%無理。そのままにしておくことにした。いわゆる放置プレイだ。そんなことが何度かあり、このところ休日の前夜は、はなっから自発的に歩いて帰るようにしている。『夜のピクニック』(恩田陸/新潮文庫)である。
そして迎える休みの朝は二度寝、三度寝、なるべく遅く起きることにしている。いつぞや妻より早く目覚めゴソゴソしていたら、「遠足の日の小学生か!まだ寝とけ」と叱られたからである。
妻と二人でゆっくりめの朝食というかブランチをいただく。以前NHK「ためしてガッテン」で朝たん(朝食でたんぱく質を摂取するのが体に良い)を知ってから妻が用意してくれるのは、納豆、玉子、魚肉ソーセージ、そしてお味噌汁と五穀米のごはん。彼女はいつも健康を気遣ってくれている。顔をみれば悪態をついてくるが、実は私のことが大好きなのだ。これを夫の希望的観測という。
すっかり春。花粉も黄砂も飛ぶ季節。「花粉症対策はバレンタインデーまでに」とTVの情報番組で知識を得た妻からの指令でいち早く耳鼻科を受診し、処方してもらった薬を継続して服用している。早めの対策が功を奏したのか、お陰様で症状はでていない。やはり姉さん女房のいうことは素直に聞くものだ。老いては妻に従え、である。
これといって予定のない休日。駅から歩いて帰られるくらいだから歩いても行けるはず。妻を誘ってみた。「福山城に桜を見に行きませんか?」
断られるかと思ったが意外にも快諾してくれた。夫婦2人してリュックを背負ってのお散歩。ちなみにリュックもウォーキングシューズもワークマンで購入したものである。
お城と桜を堪能した後は蓮池(どんどん池)まで足を延ばし、福山八幡宮を経由してぐるっと遠回りで再度駅前まで出た。ずいぶん歩くことになったが、お互いの体調のことや台湾に住む子どもたちのこと、もちろん読んだ本のことなど話しながらだったので、いつのまにか着いた、という感じだった。ただ話をしながら歩いているだけなんて、まるで中学生の初デートみたいではないか。
これでタクシーを使ったら元の木阿弥。帰りも、もちろん徒歩。考えれば車ではないので、いくら時間が過ぎようとも駐車場代を心配することは無い。ならばと天満屋の地下食品売り場に寄ることにした。『「御座候」の大判焼きは、やっぱ赤あん(小豆)じゃね~』で意見は一致。古書「児島書店」で店先の100円ワゴンを物色してから帰路についた。とある春の休日の「じじばば散歩」である。
『じい散歩』 藤野千夜 双葉文庫
夫婦あわせて、もうすぐ180歳。中年となった3人の息子たちは、全員独身。明石家の主である新平は散歩が趣味の健啖家で、女性とのコミュニケーションが大好き。妻は、そんな夫の浮気をしつこく疑っている。長男は高校中退後、ずっと引きこもり。次男は恋人が男性の自称・長女。三男はグラビアアイドル撮影会を主催しては赤字で、親に無心ばかり。皆いろいろあるけれど、「家族」の日々は続いてゆく。そんな一家の日常をユーモラスに、温かな眼差しで綴った物語。