おすすめの本RECOMMEND

いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2025/04/17 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
文庫
くますけと一緒に 新装版
著者:新井素子
出版社:中央公論新社

書店員さん発掘!
今読むべきホラー小説、待望の復刊!
令和にくますけがバズるのをみられるなんて…!!
未来屋書店さま、中央公論新社さま、ありがとうございます!!!!!!!!!
両親を交通事故で亡くし、ひとりぼっちになってしまった小学四年生の成美。
ぬいぐるみのくますけを手放せない内気な少女が、母親の親友であった裕子さんに引き取られて、少しずつその傷付いた心を開いてゆく…。涙なくして読むことができない…っっ!!
と、文庫担当スタッフに内容を熱弁していると首を傾げられてしまいました。
「え?そんな話なの?なんか帯とかPOPは怖そうなかんじだけど?」
え?怖い?
くますけの、愛が??
成美をいじめる者すべてを、遠ざけてくれるこの大きな愛が…?
この小説に出会ったとき、わたしはセーラー服に袖を通した頃でした。
もういよいよ、許されないだろう。
食卓に同席させるのも。
学校にこっそりつれて行くのも。
話しかけるのだって、誰も見ていないときじゃないと。
みんなどうやって忘れてゆけるのだろう。
当たり前のように制服に合わせて心と体を変えて。
子どもっぽい、と笑われることが増えた。
お母さんは笑ってくれずに怒るようになった。
小説の中だけれど、そのせいでいじめられ、疎まれてはいたけれど。
わたしと同じように振る舞う成美に、凍りつきそうになっていた心の中のなにかが押し流されてゆく。初めて出会った。わたしのような子。
わたしは、信じる。
ぬいぐるみを。
小説を読む間、とても幸せで安らかな気持ちだった。
成美が信じている。そういう子はいる。わたしだってここいいる。疑ったことなどなかったのに。
そして、あとがきにたどり着き、わたしは新井素子さんに出会いました。
物語じゃない、ほんとうの世界にもいた。大人で。ぬいぐるみを信じている人。
本を読み終えたその時、本当に日が差したのだろうか。光に包まれたような、明るいあたたかい風景を覚えています。
わたしのぬいぐるみ、うさぎのちびちゃんは、その後高校の修学旅行にも、友達との沖縄旅行にも、新婚旅行のハワイにも行ったし(友達とわたしとちびちゃんとの写真もいっぱいある)、あの時、自分の形を変えずに済んだことを本当にしあわせに思っています。
そして大人になり、母親にもなって読み返すこの小説は、裕子さんや彼女の夫の晃一さん、成美のママの幸代さんの気持ちが良くわかって…また…泣く。
そして、くますけの怖さにうっとりしてしまいます。
ああ、やっぱり。何よりも…信じてる。
ずっと大好きな本です。
また売ることができて本当にうれしいです。