おすすめの本RECOMMEND

いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2025/04/28 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
文庫
すばらしき新食式 SFアンソロジー
著者:新井素子 青木祐子 須賀しのぶ 深緑野分 椹野道流 辻村七子 竹岡葉月 人間六度
出版社:集英社

《ディストピア飯小説賞》によせる連載を書籍化。さらに書下ろし2編が追加されています。
ごはん。
子どもの頃、それは不安で、緊張するものだった。
食いしん坊でお料理上手の母は、さまざまな料理を食べさせてくれた。
どれもとってもおいしいけれど、初めてのごはんはとっても怖いものだった。
食べるたびに、わたしに何が起こるかわからない。
毎日おんなじものが食べたいなあ…なんて思っていた。
大人になって、自分で食べるものを素材から選び取るようになり、病院で検査をし。
わたしは胃腸がかなり敏感で、いくつもの食物アレルギーを持っていることがわかった。
さようなら、大好きな二度と食べられないものたち。
でも、毎日同じようなものを食べる日々はけっこう平和で好きです。
旅行もなんならコンビニおにぎりです。さようなら、ご当地の美味しいものたち。
そんなわたしには、SF世界のディストピア飯、けっこうありかも、と思っていたのですが。
この8編の小説を読んで改めて思う。食べるって「誰」と一緒だったかとか、その時の思い出が詰まっている。単なる栄養補給だけじゃない特別な喜びや思い出がともにある。
ただの数多に行ううちのたった一回の「食事」の風景ががこんなにも眼が眩むほどに美しいこともあるんだ。
そして「食」の裏に見えてくるのは他にもある。長い長い人間が作ってきた文化、芸術、社会…。
ただの生命維持のためだったのになんでこんなに人は夢中になっていったのだろう。
でもやっぱり、完全食の『石のスープ』とか、『しあわせのパン』と『しあわせのしずく』みたいにおんなじパンとお茶だけを食べて生きてゆくのも憧れます。
いいなあ。
毎日三食作るの、めんどいなあ…。