おすすめの本RECOMMEND

いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2025/07/16 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
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本が読めない33歳が国語の教科書を読む やまなし・少年の日の思い出・山月記・枕草子
著者:かまど・みくのしん
出版社:大和書房

待ってた!!第二弾です!!
今回みくのしんは小学校、中学校そして高校の国語の教科書に挑戦します。
まず思ったこと。
わたしとみくのしんは、正反対だけれどよく似ている。
国語の授業の間、ついていけなくて劣等感と不安を抱えていた子どものみくのしん。
反対に、国語の授業の間だけ、息ができるように感じていたわたし。
それ以外の時間はずっと、みんなについていけなくて、みんなのできることができなくて不安しかなかった。教科書の物語の中に逃げ込んで、外の痛みを肩代わりしてもらっていた。
本を読む子と、読めない子。同じように不安だった。きっとあの時一緒の教室にいれば不安を分け合えた。
読書はこの世にたくさんあるエンタメの中のひとつです。
学ぶこと、楽しむことは、「本を読む」じゃなくてもできる。
楽しいことはたくさんあるので、べつに本を読まなくってもいいと思っています。
読書は、大食いや早食いを競う必要はない。
ゆっくりしか読めなくっても、一生に一冊しか読まなかったとしても、途中で読むのを辞めちゃっても、何度も同じ本を読んだっていい。
苦しむ必要はぜんぜんない。
でももし、あなたが読書が苦手で、でも本を読んでみたいって思っているのなら、みくのしんとかまどと一緒に本を読むのを試してみてほしい。
本を読むのは孤独なこと。自分の心のふちをのぞき込むこと。
そう思っていた読書家の常識をぶち壊してくれるこの本はすごい。
みくのしんがかまどと共に、エーミールや「僕」や袁傪や李徴を小説の中から引っ張り出してきてくれる。そしてわたしの手も取ってみんなをぐいぐい引っ張って連れて行こうとしてくれる。
わたしは、自分の心の痛みを物語の登場人物に押し付けて、肩代わりさせて、物語を盾にして逃げて、自分を守ってきた。
でもみくのしんは、傷を受けても立ち上がり、同じ痛みを持つ物語の登場人物をなんとか救おうと言葉を尽くす。わかってもらいたい、じゃなくて相手を理解したいと手を伸ばす。声を上げて。
そしてかまどは、そのみくのしんの情熱に寄り添い、彼のつまずきや迷いに合わせて立ち止まる。みくのしんの出すどんな答えも否定しないし、読み方や感じ方を誘導しない。
教科書を開くとき、一歩も道を踏み外してはいけないと緊張していたことを思い出しました。
自由に読む教科書ってこんなにも、時には笑いだしたりしちゃうほど楽しいんだ。
一作目でわたしを夢中にさせた光の主人公・みくのしんとその相棒・かまど。
続編ではみくのしんの闇落ちの過去が…!?そして誰よりもみくのしんの理解者であるかまどが、彼に国語の教科書を読んでほしかった真意とは…?
ますます絆を深めたふたりの冒険と成長の物語です。
っていうか、あなたも、わたしも。
ただ生きて時間が経ってる、だけじゃない。
時間が経てば状況が変わるし、状況が変われば気持ちが変わる。
そうやって人はただ生きているだけでも何かを得続けてる。
気楽に、ものは試しに、なんの気なしに。
偶然、最高の読書体験に出会えるかもしれません。