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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2025/07/30 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

ゾンビがいた季節

著者:須藤古都離

出版社:講談社

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ゾンビがいた季節

人気小説家になり、故郷の小さな、人口50人以下の町に帰って来たトム。
古い仲間に成功を見せびらかしながらも、新作が書けずギャンブルに明け暮れる日々を送っていた。
「世界が終わる日が来たら書くかもな」
なんてうそぶいていた彼の目の前に、本当に?世界の終り?
町がゾンビに埋め尽くされている…!??
さあ、追い詰められたトムは本当に小説を書けるのか?


1960年代後半、アメリカの小さな町に持ち掛けられた、ゾンビ映画の撮影計画が思いもよらない波紋を広げてゆく…っ!
ゾンビ、好きです。ゆっくりなのも、すばやいのも好きです。
ゾンビ映画の恐ろしさ、せつなさ、やるせなさ、絶望と希望。
この小説にも全部つまっています。
愛する人が変貌してしまう。その変質は伝染してしまう。自分が少しずつ変容してしまう恐怖。
これって、ゾンビにならなくても生きていて感じてしまうかもしれない恐怖です。かもしれない、って予防線を張らなきゃいけないくらい恐ろしい現実。
生活のために信念を曲げた?
生きるために納得したふりをしている。
演じ続けているうちに、本心が自分でも分からなくなった。
人生の天井が見えた、これ以上は行けない。

でも、もし、本当に世界が終わってしまうとしたら?
行き違いや勘違いが思いもよらない方へ伝播してゆきます。ドミノ倒しのように遠くまで、そしてひとりひとりの心の奥底まで。
世界が終わってしまうとしたら、何を抱え、何を捨てますか?
もう終わりだ、をぶち壊すものがやって来た時、動き出すものもある。
拳を握りしめて読んでしまいました。
人生に閉じ込められた気分になってしまっている時におすすめの小説です。

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