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いつか読書をする人へ

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井上いつかがおすすめする本です。


啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?

2025/08/11 更新

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井上いつかがおすすめする本です。


フィクション

レモネードに彗星

著者:灰谷魚

出版社:KADOKAWA

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レモネードに彗星

あの場所、あの時、あの子に、抱いた名前のつけられない一瞬の空気のような。
わたしたちは若くて、きれいで、だからその一瞬の空気を、風のように通り過ぎたものをあっさりと忘れた。取るに足りないものだと気にも留めずに。もしくは変な味だと思って吐き捨ててしまって。あるいは違和感を感じながらも飲み込んでしまって…忘れた。永遠に。

そう思っていたのに。

序文とあと7つの短篇の入ったこの本。

こういうビート感のさみしくて遠くてかわいいお話がないかなぁ、って思っていたわたしは、きゃあ!めっちゃ良き!と読み浸りはじめる。なんの警戒心もなく開けてしまった。
ポップに可愛らしくSFラッピングされたその小説の中に、わたしが所有してなかったはずの歪みや苦みやみじめさや気持ち悪さやうつくしさ必死さ無力感や切実さが。
こういうのを『愛』だと思いたかった無謀な子ども=わたし、が、おる!
〇〇〇〇と思っていた過去の思い、なんかかわいいな。必要ないと思って忘れていたものが次から次へと頭の中にあふれてくる装置です。ぜったいに手放したくないと思っていたのに失くしてしまったものに気付いてもしまうけれど。
今のわたしも百九十六歳になって振り返ってみればなんともほほえましいのかもな。
ぜったい不必要、と思って現在捨ててしまっているものを、未来に恋しがって愛おしがるのだろうかな?
複雑な感情に心は逆巻きますが最終的な読書感想はきゅんです。
嵐の後に、きゅんです。

おすすめです!!

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