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本さえあれば、日日平安

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長迫正敏がおすすめする本です。


本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!

2025/08/22 更新

本さえあれば、日日平安


長迫正敏がおすすめする本です。


文庫

葉桜の季節に君を想うということ

著者:歌野晶午

出版社:文藝春秋

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葉桜の季節に君を想うということ

息子が台湾から一時帰国することになり、妻が彼の部屋を片づけ始めた。居ないのを良いことに、彼女は息子の部屋に自分のものを大量に持ち込み放置していたのだ。

やれやれと思いながら傍観していたが、その余波がこちらにも及んできた。あれやこれやと場所を動かしているうち、なぜだか私の本棚も移動するよう指示された。片づけという名のトコロテン式場所移動である。

ご存じのように、わが家のボスは妻である。もちろん素直に従う。一旦すべての本を床に下ろし、ハタキをかける。そして良い機会なので本の総冊数を数えることにした。
前回のコラムで『建築知識 2025年8月号』(特集「本と生きる空間」)をご紹介して、生涯読了冊数は?と問いかけながら自分自身のことは棚上げにしていたからだ。

コラムを読み返し生涯読了冊数の条件を再確認する。「便宜上10歳から80歳までの70年間を読書年齢と定め」とある。
自分で書いておきながら「はて?」と思う。これでは71年間になるのでは…
まあ細かいことは気にしないことにする。10歳から還暦過ぎの現年齢までなら、週に1冊読むペースで2,700冊くらいになっていてもおかしくない。

妻のものと思しき「わすれられない おくりもの」などの絵本、「赤毛のアン」などの文庫、「おたんこナース」などのコミック等、棚卸除外品を別にしてカウントする。明確に私のと言える本は600冊弱というところだった。
電卓をたたいてみる。これでは月1冊にも満たない0.9冊である。書店員としていかがなものか。

でも小学から大学までの学生の時、また実家暮らしの独身の頃に読んだ本は、今ここにはない。また除外した妻の本、あるいは息子の本もたまに借りて読むこともあるので、それらを加えるともっと多くなるはずである。

と、ここまで書いておいて何だが、そもそも読書は冊数の多さを争う競技ではない。数にこだわるのは無粋である。
本に関するこんな名言があるではないか。

数えるな、感じろ

本当は「考えるな、感じろ」だけど…、それにしても冊数のことネタにするんじゃなかった、と1人反省会をしながら文庫を出版社別に分けて棚に戻す。
気づけば「この本、面白かったな~」と棚詰め作業の手を止めてページをめくっていた。片づけあるあるだ。

「電車屋赤城」(山田深夜/角川文庫)、「秘剣こいわらい」(松宮宏/講談社文庫)、「寝ずの番」(中島らも/講談社文庫)、「アイスマン、ゆれる」(梶尾真治/光文社文庫)、「わが名はオズヌ」(今野敏/小学館文庫)、「ざんねんなスパイ」(一條次郎/新潮文庫)、「本にだって雄と雌があります」(小田雅久仁/新潮文庫)、「隣のずこずこ」(柿村将彦/新潮文庫)、「千年鬼」(西條奈加/徳間文庫)、「心の旅」(吉村達也/双葉文庫)

クセが強めで少し変わった…独特の世界観がある作品のほうが印象に残っており、ついまた手にしてしまう。
そうか、思うより冊数が少なかったのは、なかに二度読み、三度読みした本もあるからだ。

『葉桜の季節に君を想うということ』 歌野晶午 文春文庫

あらゆるミステリーの賞を総なめ、必ず二度、三度と読みたくなる究極の徹夜本。どんな内容か、説明するのはそれこそ野暮ってもんだ。
まあ読んでみなはれ。

妻が「カントリーロード」を口ずさんでいた。彼女の方も片づけあるあるで、途中からジブリ映画「耳をすませば」を見ていたのだ。ちなみに、この映画は1995年公開、息子が生まれた年だ。帰国が楽しみ。
ところでいつ帰ってくるのだろうか、訊けば9月の半ばらしい。まだ先だ。だから彼女も悠長にしていたのか。片づけが今でなくてもいいならお出掛けしませんか?と提案してみる。

彼女は海賊女船長のように答える。「40秒で支度しな!!」
ジブリ映画もいいけど本も読みましょう。



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