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本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
本さえあれば、穏やかな日日。ほっこりコラム連載中です。本好きのほんわかブログ・「本さえあれば、日日平安」
本好きの、本好きによる、本好きのための“ほんわか”。一日を穏やかに過ごす長迫氏のおすすめ本はこれ!
2025/11/03 更新
本さえあれば、日日平安
長迫正敏がおすすめする本です。
ノンフィクション
本屋の未来を、なぜか僕らが考えてみた
著者:坂上俊次 寺嶋良
出版社:ザメディアジョン
本が売れることを「動く」という。例えば「『王様のブランチ』で紹介された本がよく売れた」と「~よく動いた」は同じ意味である。髙田郁さんの『あきない世傳 金と銀』(ハルキ文庫)のなかでも「売れる」ことを「動く」と表現されている場面がある。
念のため「売れる」を類語・同義語・言い換え等で調べてみた。「当たる」「波に乗る」「勢いがある」、くだけた言い方だと「さばける」「食いつきがよい」、また「バズる」「ウケる」「フィーバーする」(昭和レトロ?)などが記載されていたが、「動く」あるいは「よく動く」という表現は見当たらない。
もしかして書店独特の言い回しなのだろうか?
わからないことをそのまま放置するのはよくない。なので会社の先輩に訊いてみよう、と思ったが、考えれば同期のSさんと私が店売部の最古参だった。社内では2人合わせて「アウト老~ズ」と呼ばれている。
還暦を過ぎた現在も分野の担当を持ち、仕入れと販売管理を任されている。店頭に立ちセルフレジの操作方法はもちろん、お問い合わせがあれば店内をご案内、閉店時にはレジ締めや床のモップ掛けもする。
現在当社の店売スタッフに年上の人はいない。なので「売れる」=「動く」という言葉の由来を知らないからと言って先輩にもチコちゃんにも叱られることはない。それでも、やはり気になる。
「部屋とYシャツと私」(平松愛理/1992年)ではないが、「本」と「売れる」と「動く」から、何か手がかりがないか考えてみた。真っ先に思いつくのは、本は置き場所を変えると売れ始めることがある、ということ。
本は場所を動かすと売れる…その連想から「売れる」=「動く」となったのではないだろうか。
至極単純に言えば目について手に取りやすい場所に置いてある本がよく動く。
1冊だけの棚差しよりも表紙を見せて面陳列された本につい手が伸びる。平台に高く積まれている本、また平台全面に同じ本が並べられていると手にしやすいのも同じである。
平積みでも棚前の平台よりエンド平台(棚の端っこの半島みたいに突き出たとこ)、そしてエンド平台の中でも一番手前の列、それも左端がよく動く。更にレジ前や最も目につきやすい入口の平台は、新刊やベストセラーなどの動きのよい本とか今後よい動きが期待できる本を置いている。
古い話で恐縮だが、私が大学を卒業して啓文社で働き始めた1985年に出版され、書店、出版社、取次(書店と出版社を繋ぐ卸売問屋)、また読書好き界隈で大いに話題だった『返品のない月曜日 ボクの取次日記』(井狩春男/筑摩書房)にはこう書かれている。
書店は「商品を並べる」ことに関しては、他のどの業界よりも優れている。状況が変わってくると並べ替える。その棚の前に立つと、つい手が伸びてしまうように、ある法則にもとづいて並べるのである。もちろん、本を良く知っていないとこれは出来ない。人気のある本屋にはこれを簡単にやってのける名人が必ずいるのである。
でも書店に限らず、小売業にはどの店にも並べ方の「名人」や「職人」はいる。季節ものやフェア、お買い得商品、また売れている商品にPOPや飾り付けを施して更に売り伸ばしを図ることは普通のこと。
なので「売れる」=「動く」と表現するからには、書店ならではの何か別の理由があるはずだ。
やはり本。「動く」といえば気持ちではないだろうか。本を読み感動する。感情を揺さぶられる。気持ちが昂り涙する。沈んでいた気持ちが晴れ、明日への希望が湧く。勇気が出る。本に救われるのである。
その心の動きが行動にも表れる。感動した本について誰かと話したくなる。人に薦めたくなる。つぶやいた感想が広く拡散され、やがて全国的な売れにも繋がっていく。
心を動かし、人を動かす。そんな本は売れる。なので本が売れることを動くという。
もちろん私の、私個人の見解である。的外れかもしれない。
でも本を読み、本に助けられた人たちの「心の動きが行動にも表れる」は間違ってはいない。本の紹介だけに留まらず、本と書店のことを考え、動いてくれる人たちがいるのである。
『本屋の未来を、なぜか僕らが考えてみた』 坂上俊次 寺嶋良 ザメディアジョン
アナウンサー×プロバスケットボール選手 異色の〝表現者〟コンビによる、本屋の未来を照らす1冊
町の本屋が消えているー。全国の書店の数は、ピーク時に比べて7割減。書店のない市区町村は、全国の27.9%に及ぶ(2024年8月末時点)。「本屋をなくすな」Bリーグのトップ選手と現役アナウンサーが立ち上がった。広島ドラゴンフライズの寺嶋良選手は、住まい探しの決め手は「書店と図書館」という本好きだ。2025年には、待望の著書も発表した。そして、著書10冊。「本業そっちのけ?」で活字に向き合うアナウンサー坂上俊次。本を通して親交のある2人が、本屋を訪ね、味わい、感じ、本屋の未来について真剣に考えてみた。(サイトの内容紹介より)
本書には啓文社ポートプラザ店が登場する。坂上さんのインタビューを受けたのは、われらが藤川店長
「棚やテーブルを含めた什器の大半やレイアウトは、1999年の開店以来変わっていません。そこに、歴代のスタッフが思い思いに工夫を加えてきました。まるで“老舗うなぎ店のタレ”みたいなものです」
歴代書店員の旨味を確かめに、ぜひ啓文社各店にご来店ください。
