おすすめの本RECOMMEND
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
啓文社スタッフ「井上いつか」による本のレビューです。井上いつかがお送りするコラム!
啓文社のスタッフであり、『本の虫』としても有名な「井上いつか」がオススメする本のコラムです。さて、今回はどんな本でしょう?
2007/07/14 更新
いつか読書をする人へ
井上いつかがおすすめする本です。
ノンフィクション
失われた町
著者:三崎亜記
出版社:集英社
今はもう取り壊されてしまった、わたしの通った木造の幼稚園を思い出しました。
つやつやに磨かれた板張りの廊下や木の窓枠。皆でおそるおそる覗き込んだ床板の節穴。雨の日、あちこちに置かれたたらいに落ちる雨もりの音。そこで、生まれて初めて感じた強い不安や悲しみ。
本を読んでいると、その中身とは全然関係のない思い出などが、ぽっかり浮かんでくるのが不思議です。
人為でない、あまりにも美しい風景を観ていると悲しくなってしまうのに似た小説だと思いました。悲しいのに、悲しむ事がゆるされない人達の物語は、読んでいてなぜか、しあわせな気持ちになる、不思議な小説です。